気持ち



 はじめは、責任感だった。

 親のないの面倒を見ると言う事が、子供の頃からの日課であった。

 時には嫌になったり、投げ出した事もあった。

 いつからか。

 幼なじみとして、頼られる兄のような存在として、を支えて行こうと。

 そう思い始めて。

 そしていつからか。

 男として、を想い始めていた。



「宗、ちゃん…」

 神の腕の中、少女が不安気な声で言う。

 いつも。

 窓を開ければ、すぐに会える。

 物心付いた頃から、そうやって暮らして来た。

 朝一番に、「おはよう。」を言い。

 同じ時刻に家を出て、学校まで通っていた。

 が雷を怖がって眠れない時は、手をつないで眠ったりもした。

 当たり前のように、そばにいた。

 いなくなるなんて、そんな事は考えられなかった。

 怪我をして日本を離れる時も、の「帰って来る。」と言う言葉を信じて待っていた。

 少女が、自分の知らない場所へ行ってしまう事が、これほど怖いと思ったことはなかった。

「本当は…」

 神がゆっくりと口を利く。

「誰にも渡したくなかった。」

 ぎゅっと、少女を抱きしめる。

「俺は小さい頃からずっと、一番近くでを見ていたから。」

 少女の瞳は、不安気に神を見上げている。

が樋口くんの話をするようになって… 少し悔しかった。 彼はきっと、の特別になるって、会った時にすぐにわかったから。」

 神は、きつく少女を抱きしめたまま続ける。

「自分の気持ちをずっと言えなかった。 言ってしまったら、の帰って来る場所が、変わってしまうとわかっているから。 でも…」

 そっと、少女の髪を撫でる。

「それでも俺の気持ちを知って欲しい。 が好きだ。」



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