ドサ。

 突然の物音に、振り返る。

 まだ涙の止まらない瞳に映るのは、背の高い、幼なじみの姿。

「宗…ちゃん………」

「………っ…!」

パチン。-----

 打たれた左頬が、熱い。

 何を言うより先に、神がを抱きしめた。

「宗ちゃ………」

 神は、何も言わない。

 ただ、強く抱きしめるその腕が、すべてを語っているように思えた。

「…ゴメンなさい。」

 の声に答えるように、抱きしめる力が強くなる。

「心配かけて、ゴメンなさい…」

 神が小さく首を振った。

「…帰って来ないと思った。」

 を抱きしめたまま、続ける。

「もう、二度と、会えないと思った………」

 震えた声が、耳に響く。

「………ゴメンなさい。」

 小さい頃から神は。

 優しくて、頼りになって、にとってはお兄ちゃんのような存在だった。

 だから。

「だから、泣かないで、宗ちゃん………」

 神が涙を見せた事なんて、一度たりともなかった。

 神が自分のせいで泣いていると思うと、胸が痛んで、それ以上何も言えなかった。

 を抱きしめるその腕が、いつものものよりきつく感じる。

「宗、ちゃ…」

♪〜

 何か言おうとして、電話が鳴った。

「宗ちゃん、電話………」

 神はを離さない。

「宗ちゃん、電話切れちゃうよ…」

 が身を捩るが、神はそれすらも許さないようにを抱きしめる腕を緩めない。

「宗ちゃん、離して…」

「嫌だ。」

 神の声に、が眉を寄せた。

「宗ちゃん………」

 しばらく鳴った後、電話は切れて、静まり返った部屋で、自分の心音だけが響いている気がする。

「宗ちゃん…?」

 いつもと違う様子の幼なじみに、も戸惑いを隠せない。

「ゴメンなさい。 もうどこかへ行ったりしないから… だから………」

「嫌だ…」

 は言葉を飲み込んだ。

 何を言えばいいのか、わからない。

「離したくない…」

 神の声が、耳元で響く。

「このまま… 二度と離したくない。」



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