湘北高校球技大会(前)



パシュッ。―――

 放り投げられたボールが、ゴールに吸い込まれた。

ピピーっ!

 同時に試合終了の笛が鳴る。

「きゃ〜、やった〜!」

 最後にゴールを決めた少女、が嬉しそうに飛び跳ねた。

 秋も更けて行く、神無月。

 ココ、湘北高校では、クラス対抗の球技大会が行われていた。

 それぞれの種目の部員達は、その種目に参加出来ないのだが、マネージャーは良いとの事で、はバスケに参加していた。

 試合時間 20分。

 スコアは 19 - 7 。

 1−4 の圧勝だった。

 相手をしていた 2−1 からすれば、災難としか言いようがない。

「もぉ、少しは手加減しなさいよね!」

 彩子が恨めしそうにを見上げた。

「えぇと、一応したんですけどね…」

 はすまなそうに頭を掻いている。

 そんなを見て、彩子は小さく笑った。

「ウソよ、ウ・ソ。 ごめんね、相手にならなかったでしょ。」

 が本気でかかれば、2−1 を完封出来たはずである。

 よほど疲れたのか肩で息をして、ちらっとコ−トを見る。

 ショックに打ちのめされた男子が、呆然と佇んでいた。

(まぁ、一人の女の子に負けたような物だからね。)

 彩子は何やら複雑で、苦笑を浮かべた。

 実はこの球技大会。

 バスケとバレー、それとドッジボールは男女混合で行われているのだ。

「情けねえぞ! ちゃん一人にやられるなんて!」

 宮城が喚き散らしている。

 先ほど、サッカーの種目で2回戦を突破して来たばかりだ。

「あ、アヤちゃんv ちゃんv お疲れさまv」

 2人と目が合うと、態度一変である。

「あ、あの…!」

 2−1 の選手達に遠慮がちに歩み寄って、は微笑んだ。

「アリガトウございました。 楽しかったです。」

 天使のようなその笑顔に見惚れて、選手達は気にするなと口々に言った。

「優勝しろよ。」

 そう言ってくれたので、は嬉しくなって。

「はい!」

 満弁の笑みでそう答えた。




「「「お疲れ〜。」」」

 一角に陣取っていた桜木軍団の面々が、手を振っている。

「アリガトウ。」

 が細く笑った。

「しっかし、上手いな。 バスケ部と勝負しても勝てるんじゃないか?」

 本心でそう言ったのは、水戸洋平。

「そんな、大袈裟よ。」

 は首を竦めた。

さん! お疲れ様です!」

 妙にかしこまって、桜木花道が言った。

「ところで、ココにいていいの? 桜木君はバレーだっけ?」

 が首を傾げる。

「いーのいーの。 花道は、いても邪魔なだけだし。」

「そうそう。 バレーなんか出来る訳ないじゃん。」

「見方に批判されるがオチだ。」

 高宮、大楠、野間が、それぞれ好き勝手言っている。

「んだと、テメ〜ラ!」

 3人を追いかけて、桜木が走り出した。

 水戸が、やれやれと溜息を吐く。

「決勝は、2:00 からだろ? 見に来るから、勝ってくれよ。」

 そう言って慌てる様子もなく、桜木達の後を追いかけた。


「んふっふっふv」

ビクッ。

「な、何だよ…」

 背後から不気味な声がして、三井は不機嫌そうに振り向いた。

「いいえ、別に。 誰も、先輩がを見てたなんて言ってませんし?」

 彩子がニヤリと笑って、三井を見上げる。

 三井は返答に詰まった。

「そんなに気になるなら、謝って来たらどうですか? は先輩と違って心が広いから、きっと笑って許してくれますよ。」

 可笑しそうに笑いながら、彩子が言う。

 チクチクと胸に刺さる言葉に、三井は眉を顰めた。

「俺は謝らねえ!」

 ふと、何気なくの方を見る。

 今度は流川と、何やら話し込んでいるようだ。

「ちっ…」

 三井は一つ、舌打ちをして、体育館を出て行った。


「オイ…」

 流川がに声をかける。

「ん、何?」

 が流川を見上げた。

 流川はを見つめたまま、ボソリと呟く。

「あんま、シュートはするな。」

「? どうして?」

 は訳がわからず、首を傾げた。

 流川は一つ、溜息を吐いた。

「…腹が見える。」

 ぼそっと呟かれて、はきょとんとした。

 やがて、流川の言葉の意味を悟り、真っ赤になっていた。

「る、流川君〜! ///// 」



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