湘北高校球技大会(後)



PM 2:00。

 それぞれの種目の決勝戦が今、始まろうとしている。

 グラウンドでは、サッカー。

 第一体育館では、バレー。

 第二体育館では、バスケ。

 はコレまでの試合の得点の内、3分の2と言う驚異的な数字を記録していた。

 今や湘北のアイドル的存在・が目当てで、第二体育館は人でごった返していた。

 バスケは 1−4 vs 3−3 の組み合わせである。

 のクラスと、三井のクラスだ。

 三井の参加するバレーは、準決勝で敗れたので、バスケの方に応援に来ていた。

〜、行け〜!」

 彩子など、自分のクラスをそっちのけで、バスケ観戦をしている始末だ。

 彩子が見ていると信じ、グランドで懸命にサッカーボールを追いかける宮城が、気の毒である。

シュパッ。―――

 出出しは好調だった。

 先制点を奪って、早くもはゲームを支配している。

「「「きゃ〜っvV」」」

 第二体育館は、賑やかだった。

〜、ダンク行け〜!!」

 彩子が叫んでいる。

「…あはは、ダンクですか?」

 が苦笑いした。

 身長 156cm。

 ダンクなど、無理を言うにも程がある。

 3年のガード陣を交わして、はシュートフォームに入った。

 フェイダウェイジャンプショットが、キレイに決まった。

「きゃ〜!!」

 彩子が隣にいた晴子に抱きついて、喜んでいる。

「先輩、今ので許して下さいよ〜。 ダンクは出来ないんです〜。」

 試合だと言うのに、は2人の近くにまで謝りに来る。

「じゃ、アレやりなさい! フックショット! 得意だったでしょ。」

 彩子はまるで自分のチームの事のように、嬉しそうに笑っている。

「はい! フックですね、わかりました!」

 笑顔で答えたは、直後にフックショットを見事に成功させた。

「きゃ〜、きゃ〜!! 〜!」

「ア、彩子さん…」

 はしゃぐ彩子に、晴子が困った。

 館内は、コール一色だった。

 残り 6 分で、スコアは 23 - 6 。

 優勝は決まったような物だった。

 晴子はのプレイに目を奪われていた。

 素早く、力強く、正確。

 まるで、インターハイを見ているかのようだった。

「…ちゃん、すごい。 実力は、健在ですね。」

 晴子が彩子の顔色を伺った。

の、ポジション覚えてる?」

「え…」

 彩子の突然の問いに、晴子は首を傾げた。

「…ポイントガード、でしたよね?」

 晴子の答えに、彩子は頷いた。

「 PG 。 一般的に言えばポイントガードよ。 でも、はこう呼ばれていたわ。」

 視線の先、コートではがボールを片手に駆け抜けている。

「 Present The Game 。 」

 ボールがゴールに吸い込まれる。

 3Pだった。


 館内の一角に陣取っていたバスケ部の面々、言葉が出ない。(宮城以外。)

(ボール運びから全部一人で…何て奴だ…)

(あぁ、さん。 可憐だ…)

(…にゃろー。)

 上から三井、桜木、流川である。

 が跳んだ。

レイアップシュート!―――

 館内の視線が集まる。

バチィッ。―――

「きゃっ…」

 3年が強引にブロックに来て、は跳ね返された。

 バランスを崩して、頭から、コートに落ちる。

パシュ。―――

 シュートは決まった。

 しかし。

 打ち所が悪かったのか、は気を失ってしまった。

「「「(さん)っ!」」」

 3人は同時に飛び出した。

 流川が、に接触した3年生を締め上げている。

 流川に先を越された桜木は、怒りをぶつける場所を見つけられず、ただ文句を言うばかり。

 三井は気を失ったを抱き上げて、保健室に向かった。


 幸い、怪我はなく、軽い脳震盪で済まされた。

 ほっと、安堵の溜息が漏れる。

「ったく、焦ったぜ…」

 安らかな寝息を立てるを見て、知らずの内に口元が綻んでいる。

 何気なく唇に目が行ってしまい、先日見た光景がフラッシュバックした。

 ………藤真との、キス。

「ただの、先輩じゃなかったのかよ…」

 ぼそっと、愚痴ってみる。

 がコートに投げ出されて、血の気が引いた。

 気が付いたら夢中で、抱き上げて保健室に向かっていた。

「…バカみてえだな。」

 自嘲的な呟きが漏れる。

 視線はを見つめたまま、動かない。

「たとえ、お前が藤真を好きでも…俺は、もう…諦められねえよ…」

 三井はしばらく、の寝顔を見つめていた。


 ちなみに。

 1−4 は、のおかげで、バスケで優勝を飾った。

 宮城リョータ率いる、2−1 は、サッカーで優勝したそうだ。



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