「大事な話って何? 清田君。」 温かいミルクティーの缶を片手に、が清田を見つめる。 清田は俯いたまま、缶コーヒーのツメをカチャカチャと鳴らしていた。 「………清田君?」 いつもと違って何か思い詰めたようなその様子に、は首を傾げた。 清田は空を仰いだ。 木々の隙間から、星の出始めた空が見える。 清田は意を決して、口を利いた。 「………樋口、炎。(ヒグチ エン)」 目を丸くするを、真っ直ぐに見つめる。 「…E・Hって、そいつの事だよな?」 は声を上擦らせた。 「どうして清田君が、炎君を知ってるの?」 清田はの問いには答えなかった。 にそっと手を伸ばし、耳元を掠めて髪に触れ後ろ首を撫でる。 わずかに体を強張らせて、は清田を見つめた。 ブチッ。――― 「え?」 首にわずかな痛みを感じて、は青ざめた。 いつもぶら下げているネックチェーン。 それは簡単に外されてしまった。 「か、返して!」 は手を伸ばして清田からネックチェーンを取り返そうとするが、22センチの身長差がそれを許さない。 「もう付けないって約束するなら返す! それまで俺が預かる!!」 「どうして清田君にそんな事言われないといけないの! オネガイ、返して!!」 目に涙を浮かべて、が訴えた。 清田は唇を噛み締めた。 「そんなに大事なのかよ!!」 突然の怒鳴り声に、はビクッと震えた。 清田はの細い腕を掴んだ。 は清田の思い詰めたような、泣き出しそうな表情に困惑するばかりで言葉を探せない。 「神さんも藤真さんも! 湘北も他の学校のヤツラも… 俺だって!! こんなに………!! どうしようもないくらい、ちゃんが好きで大切なんだ!!」 突然の告白。 は驚いて目を丸くする事しか出来ない。 「好きだから! ちゃんと前を向いて歩いて欲しいんだよ!!」 清田は腕を振りかざした。 嫌な予感がして、が叫んだ。 「オネガイ、止めて!!」 の静止を聞かず、清田はそのまま腕を振り抜いた。 夜空に溶け込んで見えなくなったわずかな輝きに唇を噛み締めて、清田を睨み据える。 「ひどいよ! どうしてこんな事するの!?」 酷く取り乱した様子で、清田に突っ掛かる。 「アレのせいで前に進めないなら、いつまでも持ってたらだめなんだ!! 早く忘れて、ちゃんと前を見ないとだめなんだ! いつまでも死んだ奴の事、想ってても仕方ないだろ!!」 バチン。――― 乾いた音が、静寂に響いた。 「………言い過ぎよ。」 は涙を浮かべて、走り去って行った。 叩かれた右頬を押さえて、清田は唇を噛んだ。 「…いってぇ。」 冷たい風が、吹き抜ける。 一粒の雨が、熱い頬に冷たく触れた。 |