謎の美少女



「三井、これから部活か?」

 ホームルーム終了後、赤木が三井にそう聞いた。

「おう。」

 三井は短く答えると、大きなスポーツバッグを片手に席を離れた。

「そうか、問題児共によろしくな。」

 そう言った赤木に、背を向けたまま手を振る。

 学校に通う理由が、バスケがしたいから。

 そう言っても過言ではないこの三井寿は、最近すこぶる機嫌が良かった。

 夏が終わって、冬の選抜目指して練習をしている今、時々体育館に足を運ぶ少女に気付いたのだ。

 彼女は噂の、アメリカ帰りの転校生。

 噂になるだけあって、可愛い。

「今日は来るかな…」

 一人呟いた三井の口元が緩んでいた。



 練習開始から間もなく、体育館の入口に例の少女が現れた。

来た。―――――

 口にはしなかったが、誰もが心の中でガッツポーズをした。

 柔らかそうな栗色の髪、整った顔立ちに白い肌…見れば見るほど美少女である。

 それによく見ると、左右の目の色が違う。 左目が緑色だ。

「バスケ部に御用かしら?」

 マネージャーの彩子が待ってましたとばかりに声を掛けた。

 しかしその声が聞こえていないのか、少女はコートを見つめたまま動かない。

「…もしも〜し?」

 困ったような彩子の二度目の声に、少女は驚いた様子で振り返った。

 驚いたように目を丸くして、食い入るように彩子を見上げる。

 彩子は少し考えて、少女に言った。

「アー ユー スピーク…」

「あ、ゴメンなさい…っ!日本語わかります…」

 慌てて顔を真っ赤にする少女を見て、彩子は小さく笑った。

(本当に可愛いわねぇ。)

「見学なら、あそこの椅子に座ってもいいわよ?」

 笑顔で言う彩子に、少女は首を振る。

「あ、気を使わないで下さい…すぐに、帰りますから…」

「いつも練習を見に来るでしょう?」

 彩子にじっと見つめられて、少女は赤くなりながら小さく頷いた。

「バスケが、好きなのかしら?それとも、他に誰かお目当てがいるの?」

 詰め寄るように質問する彩子に、少女は困った様子でうろたえていた。

「もしかして、マネージャー希望とか?」

 にっこりと微笑む彩子の気迫に押されて頷くかと思いきや、少女は儚な気に微笑んだ。

「………すみません、帰ります。」

 少女の笑顔が何故か痛々しく見えて、気付いた時には彩子は帰ろうとするその腕を掴んでいた。

「変な風に取らないでね?邪魔だとか言ってるんじゃないわよ。」

 彩子の言葉に、少女はにっこりと微笑んだ。

「………お邪魔しました。」

 美しい笑顔とは対照的に、少女の声は淋しそうだった。

「ねえ、マネージャーの件、考えておいてね!」

 体育館を去る小さな背中に言葉を投げて、彩子は館内に視線を戻した。

「彩子さん、サスガ!」 大きな声でそう言ったのは、桜木。

「彩ちゃんv」 宮城は鼻の下を伸ばしている。

「…。」 流川は無言で少女の背を見つめ、

「よぉ〜くやった!」 三井はガッツポーズをした。

 彩子はわずかに頭痛を感じた。

「練習に戻りなさい!」

 いつものハリセンが、勢いよく炸裂した。



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