2年



「えへへv ごちそうさまでした♪」

 かなりご機嫌な様子で、がにっこりと微笑んだ。

 丁度良い時刻、を送るために、2人は並んで歩いていた。

「チョコチップサンデーは、またの機会に奢って…」

「調子に乗るな!」

 藤真がピチッと、の頭にデコピンを入れる。

「ぶ〜。 わかりました!」

 は大袈裟に側頭部を押さえて。

「でも、今度一緒に食べに行きましょうね。」

 と、満弁の笑みを浮かべて藤真を見つめた。

「そうだな。 ついでにまた泊まりに来るか?」

 つられて笑い、藤真がを見つめる。

「そうですね、ママさんにもご挨拶に行かないと。 都合がいい日とかってあります?」

「いつでもいいよ。 ちゃんが来るって言ったら、きっとすっ飛んで帰って来るだろうから。」

 他愛もない話をしているうちに、の家が見えて来る。

 公園を真っ直ぐに、街灯の灯された散歩道を通る。

「ここに来るのも、2年ぶりだな。」

 思うところがあるのか、藤真は歩きながらふと呟いた。

「2人で歩いたのは、初めてですよね。」

 自分を上目使いで見上げる、街灯が2人を照らしている。

 ふと、昔、誰かが言っていた言葉が頭に浮かんだ。

 は小さくてキレイだから、しっかり捕まえておかないと、どこか遠くへ行ってしまうんじゃないかと不安になる、と。

 風が吹いた。―――

 次の瞬間。

 藤真はを強く抱き締めていた。

 あまりに突然だったので、はしばらく固まっていたが、やがて首を傾げる。

「…先輩、どうかしたんですか?」

 藤真は答えない。

「…藤真先輩?」

 はただ、首を傾げる事しか出来ない。

「………2年。」

 ほどなくして、声が聞こえた。

「え…?」

 が身じろいで首を傾げる。

「君が帰って来るのを、ずっと待っていた…」

 柔らかいの髪を愛し気に撫でて、藤真は続けた。

「約束の事を言ってるんじゃない。 君がバスケから離れていても、会えれば、それだけで良かったんだ…」

 は訳がわからないと言った様子で、目をパチクリさせている。

「…どうして………」

 藤真は更に強くを抱き締めた。

「どうして、翔陽に来なかったんだ…ただ側にいて欲しかっただけなのに………」

 縋るような藤真の声、は胸が痛かった。

 それが、何故だかわからない。

 藤真は腕の力を少し緩めて、目を丸くしたままのの頬に触れた。

 ビクッと、が震えたのがわかった。

「…あんなに小さかったのに… 俺の中で君は、いつの間にか… こんなにも大きな存在になっていたんだな。」

 不安気に怯えた瞳に、優しく笑いかけた。

「答えて欲しい… 俺は、いつまで"先輩"なんだ?」

 少し屈んで、掠めるような優しいキス。

 を見ると、ただ驚いたように目を丸くしていた。

 藤真は頬に添えた手での顎を持ち上げ、指でそっと唇をなぞり、もう片方の手で華奢な体を抱き寄せた。

 先に顔を近づけたのは藤真で、先に目を閉じたのはだった。

 二度目のキスは、優しくて温かくて…少しだけ、痛かった…



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