各部屋の様子



In 松の間。―――

「…しかし、大概にしろよ、藤真。」

 練習着に着替えながら、牧が言う。

「何の事だ?」

 藤真は首を傾げた。

「とぼけるな。 の事だ。 遊びに来てるんじゃないんだぞ。」

 牧の言葉に、藤真は軽く肩を竦める。

「あの険悪な空気の中で、3日過ごすなどごめんだからな。」

 窘められて悔しいので。

「…牧も、惚れたんだ?」

 意地悪く笑って訊ねると、牧は驚いたように目を丸くしていた。

「オイ、何故そうなるんだ?」

 牧はどっと疲れたように、溜息を吐いた。

「牧さん、溜息なんか吐いていると、老けて見えますよ。」

 神がからかうように小さく笑っている。

 つられて笑いながら、藤真が言う。

「いつもは初対面で、女の子を呼び捨てになんかしないだろう。」

 どうだ、とばかりに、牧を指差す。

「…一応、面識はあるんだがな。」

 牧がちらっと、神を見つめる。

「まぁ、そう言う訳です。」

「どんな訳だよ?」

 神の言葉に、藤真が首を傾げた。



In 竹の間。―――

 何やら不機嫌な様子で、着替える三井。

 宮城が話を振っても、「ああ。」 とか「そうだ。」 としか言わず、会話が続かない。

 宮城は小さく溜息を吐いた。

「藤真さんの事で、イラついているんですか?」

 既に着替え終え、2人を待っている越野が問う。

「…ま、ウチの仙道も… アイツ、少し可愛いといつもあんなんで…も〜、勘弁しろよな。」

 いつも、と言う事はかなり苦労をしているのか、越野が肩を落とした。

「イヤ、関係ないよ。 三井さん、ちゃんと喧嘩してて… それで更にイライラしてるだけだから…」

「…宮城〜。」

 解説しようとした宮城を、締め上げる三井。

「あ、喧嘩じゃないですよね。 三井さんが頑固だからいけないんだし。」

 火に油、宮城の発言で、三井は更に不機嫌度を増す。

「あのマネージャーな、可愛いよな。 仙道だけならともかく、藤真までが惚れるのもわかる気がする。」

 越野のこの台詞で、三井の攻撃の矛先が変わった。

「ふざけんな! あんな手の早い奴にを渡してたまるかよ!」

 三井の気迫にわずかに驚いて、越野は言葉を失った。



In 梅の間。―――

「オイ、野猿! 貴様、さんとはどう言う関係だ?」

 部屋に入るなり、桜木が清田に掴みかかった。

ちゃんなどと、馴れ馴れしく呼びやがって。 さんが迷惑がってんのを知ってるのか!」

 2人のいがみ合いを見ながら、気まぐれエース2人組みは着替えを始めた。

「な、んだよ、赤毛猿! 俺がちゃんをどう呼ぼうと、勝手だろ!」

 負けじと言い返す清田。

 招集がつかなくなる前に、仙道が口を挟んだ。

「早く着替えないと、そのちゃんを待たせる事になるんじゃないのかい?」

 流石、年上と言った所だろうか。

 2人は急いで着替えを始めた。



In 藤の間。―――

、アンタさ…本当にいいの?」

 彩子が何度目かわからない問いを投げる。

「はい。 大丈夫です、気にしないで下さい。」

 がにっこりと笑った。

 古い旅館などに、怪談話はつき物で、いかにも出そうな感じである。

 藤の間は2人用。

 一人は隣の別室になってしまうのだ。

「一人って言っても、寝る時だけですし。 それに、晴子ちゃんも怖がってるみたいだし。」

「あぁ、ごめん。 あたし旅行とか行っても、絶対に一人で寝られないのよ〜。」

 晴子がすまなそうに謝った。

「ところで、。」

 彩子が抱いていた疑問を口にする。

「合宿参加メンバーとは、知り合いって感じだったけど?」

「あ、はい。」

 は笑顔で続けた。

「宗ちゃ…神サンとは幼なじみで。 清田君と牧さんは、宗ちゃんの家で一緒に試験勉強をしました。」

 始めは言い直しただが、やはり言い慣れている愛称で幼なじみを呼んでしまう。

「仙道さんは…ナンパされた所を助けてくれたんです。」

 は少しの間、難しい顔をして悩んでいたが、すぐに首を傾げた。

「初対面は、陵南の越野さんだけですね。」

 晴子が口を挟んだ。

「藤真さんは? 仲良かったみたいだけど。」

「藤真先輩は、中学の頃の先輩よ。 いろいろお世話になったし、仲も良くて当然だよ。」

 細く笑ってが言う。

(今の所は、藤真さんが一歩リードしてるみたいね…)

 彩子の目が怪しく光った。

「アンタって、もてるわね。」

 彩子の呟きに首を傾げるを見て、可愛いなと素直に思う。

「何でもないわ。 行きましょ!」

 2人を急かして部屋を出る。

(楽しくなりそうねv)

 を廻る争いを期待して、彩子はニヤリと笑った。



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