勉強会2



20分後。―――

 「出来ました。」

 は机の上にペンを置いた。

 「ほう…」

 牧が少し驚いたようにプリントを取り上げた。

 5分程、採点のためにプリントを見て、牧は舌を巻いた。

「………信じられん、完璧じゃないか。」

 B4プリントに正確に書き綴られた答えを見て、牧は驚きを隠せない。

 自分の隣で数Tに音を上げている清田と同じ学年の女の子が、たった30分でコレを解いたのかと思うと、少し頭が痛い。

「だから言ったでしょう。 変な約束なんかしちゃって、どうするんですか?」

 そう言いながらも、神は少し嬉しそうだった。

「…コレ解けるか?」

 牧は数学のプリントをに差し出した。

「ああ、微積分の応用ですね。 出来ますよ。」

 言いながら、少しも悩まずにすらすらとペンが走る。

 牧はもう一度舌を巻いた。

「…本当に一年か? 凄いな。」

 にっこりと微笑んだを見て、牧は知らずのうちに細く笑っていた。

「…約束だからな。 何か欲しいものとかあるか?」

 は躊躇いがちに口を利く。

「あ、あの…私、今湘北バスケ部のマネージャーやってるんですけど…今度、うちと練習試合をして…くれますか?」

 不安気に上目使いで自分を見上げる、牧はその頭を優しく撫でた。

「願ってもない。 よろしく頼む。」

 突然の不意打ちに、はわずかに頬を朱に染めた。

「牧さん…ちゃん〜〜〜」

 清田は両方に餅を焼いている。

 は目を反らさずに、牧をじっと見据える。

 まだ、何か言いたそうだ。

「言ってみろ。 何でもしてやるって言っただろ?」

 は小さく頷いた。

「…あ、あの、っ。」

 遠慮がちに、は牧を見つめた。

「練習試合を、見たいんです… 海南と、翔陽の…」

 牧は翔陽の名が出たことに首を傾げたが、首を傾げて自分の表情を伺うに、思わず小さく吹き出してしまう。

「ああ。 一番良く見える席を用意しておく。」

 はその言葉を聞くと、満足したのかにっこりと笑った。


 .。.:*・♪.。.:*・♪.。.:*・♪

 の携帯電話が鳴った。

「…あ、電話。」

 失礼しますと頭を下げて、は電話を取った。

「はい、です。 どうかしたんですか?」

 の声で神は悟った。

 誰からの電話かを。―――

「え? あ、はい! ありがとうございます… ゴメンなさい。 はい、大丈夫です。 …わかりました。」

 の声しか聞こえず、何の話なのか見当も付かない。

「…はい、おやすみなさい。」

 しばらく話した後、は電話を切った。

「…先輩からだった。」

「そうだと思ったよ。 忘れ物?」

 神の問いに、は小さく頷いた。

「明日、ディッパーダンで合う約束したの。」

 ディッパーダン、巷で少し有名なクレープの店だ。

「翔陽もテスト中だから、終わるの早いんだって。」

 にこにこと話すに、清田が首を傾げた。

「…翔陽?」

 少し考えて、牧が手を叩いた。

「…藤真か。 同じ泉中だろ。」

 だから、試合が見たいのかと、牧は一人納得していた。

 時刻は11時を回っていた。

「ほら、。」

 神が時計を見て、に微笑んだ。

「…は〜い、わかりました。」

 本当はもう少し起きていたいのだが、昨日の今日で神達に迷惑はかけられない。

 は腰を上げた。

「牧さん、ありがとうございました。 楽しみに待ってます。」

 牧に柔らかく微笑んで、窓際に寄る。

「宗ちゃんも清田君も、勉強がんばってね。」

 笑顔で手を振るに、神が首を竦めた。

「…俺とノブは、牧さんの ついで みたいな言い方だね。」

 が慌てて首を振る。

「違うよ! そんな事言ってないっ!」

 が窓を開けると、涼しい風が、部屋の中に入った。

「おやすみなさい。」

 来た時と同じように、窓から自分の部屋に戻った。


「………俺も眠いっす。」

 清田が牧の顔色を伺うように呟いた。

「だめだ。 その問題が全部解けるまで、今日は徹夜だ。」

「そんな〜!」

 涙目で訴える清田を無視して自分の勉強に取り掛かろうとして、が解いたプリントが目に入った。

「…せめてあの子の半分くらい知識があれば… 試験前日に焦る必要なんてないんだがな。」

 牧の溜息交じりの声に、清田は半泣きである。

「…ど〜せ俺は勉強出来ませんよ。」

 牧はペンを走らせながら、独り言のように呟いた。

「しかし… 猫みたいな子だな。」

 清田が首を傾げた。

「は? 俺がですか?」

「ノブは、猿でしょ。」

 すかさず、神が突っ込みを入れた。

「じ、神さん…」

 何か言いたそうな清田を無視して、神は牧に口を利いた。

の事ですよね。 それわかりますよ。」

 神が続ける。

「少し気紛れで、心を許した相手には甘え上手で、でもつかみ所がなくて…」

 言っているうちに、苦笑いが漏れる。

「…でも、甘やかしちゃうんですよね。 何て言うか、どうしてでしょうね。」

 いつもの笑顔でそう言う神に、牧は口元に細い笑みを浮かべた。

「苦労しているみたいだな。」

 神は首を竦めた。

「でも、いいんですよ。 …いろいろ、ありましたけどね。」

 3人は黙って勉強を再開させた。

 神の部屋の電気は、明け方近くまで消えなかった。


 × × × × × × × × × ×


 はい。 海南と言えば、この人を忘れてはいけません。
 帝王・牧さんです。
 さんはいいマネージャーしてますね。
 練習試合の約束をしましたよ、牧さんと。
 でも、翔陽との練習試合が見たい…
 き、気が多い?(笑)
 前回絡んだ清田君は、牧さんの前では静か(?)だと言う事で…。
 にしても… 先輩と、ディッパーダンか…。
 書きたい…。(笑) おまけじゃなくて、本編にしちゃいましょうかね。(笑)



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