幼なじみ



コンコン。

 窓の外、二回のノックに神は首を竦めた。

「着替えてないから大丈夫だよ。」

 いつもはそのまま入って来るが、ノックをするのはちょっと話がしたい時だと、神は知っている。

「座ってな。 コーヒーでいい?」

「ん、砂糖三つね。」

 窓の側にちょこんと座る

 入れて来たコーヒーを手渡して、神はを見つめた。

「今日はどうしたの?」

 は神を見上げて、ちょっとはにかんだ。

 神は首を竦めた。

「二人が帰って、ちょっと淋しい?」

「あたり☆」

 小さく舌を出して、いたずらっぽく笑う。

「二週間の間に、色々昔の話とかして、あの頃はあの頃で楽しかったな〜って。」

 少し俯いて、付け足すように呟く。

「…三年前が一番楽しかったけど。」

 淋しそうな声色に、神は少し胸が痛くなった。

「夜、毎日、話に来たもんね。」

「ん。 話しても話しても、話し足りなかったもん。 あ…」

 何かを見つけたらしく、は神の本棚に手を伸ばした。

「まだ持ってたんだ。」

 薄汚れた猫のぬいぐるみ。

「何かね、捨てられないんだよ。 それがないと、が泣くかなと思って。」

 小さく笑う神に、は頬をぷぅと膨らませた。

「まだ子供扱いする…」

「俺から見れば、はいつまでも子供なんだよ。 昔から、砂糖三つ。」

 小さく笑う神に、つられても笑った。

「あのね、今度の休みに、行きたい所があるんだ。」

 言い難そうに、言葉を切り出す。

「一緒に来て欲しいって事かな?」

 神の言葉に、小さく頷いた。

「一人だと… 何か、ちょっと怖いんだ…」

 膝を抱えて頭を埋める。

 小さな肩が震えているように見えた。

 神は息を吐いて、の隣に腰を下ろした。

「俺の前では、我慢しないって約束だろ。」

 大きな手で頭を撫でられて、声が震えた。

「ん。 明日からまたがんばるから。 今日は、泣いてもいいよね…」

 何も言わずに、何も聞かずに、神はこうして側にいてくれる。

「宗ちゃんが、幼なじみで、本当に良かった。 ありがとう…」

 少女の膝の上で、猫のぬいぐるみが泣いているように見えた。

 頼られる幼なじみ。

 少女の心が休まるなら、まだ幼なじみとして側にいてあげたいと思った。



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