留学生



 突然に抱きついた、いかにも軽そうな大男。

 マイク・ブラウンは、3年3組、三井と同じクラスに。

 が柔らかな微笑を浮かべた、一癖ありそうな一見好青年。

 エリオル・トーマスは、桜木・流川と同じ、1年10組に編入して来た。

 休み時間毎にそれぞれ女生徒達に囲まれて、他愛もない話に花を咲かせていた。

 初対面では英語しか話せないと思ったが、日本語が上手い。

 流川は、いつもの無表情に加え更に不機嫌を醸し出していた。

 その訳は。

「エリオル。」

 声のした方に、目をやる。

 密かに思いを寄せている少女、が微笑んで手を振っていた。

っ!」

 が10組に入ると同時に、金髪の大男が後を追うように教室に入ってくる。

「ぬぅっ! あの外人め〜!」

 桜木が忌々しそうに毒付いた。

 エリオルを訪ねて、が休み時間毎に10組に足を運ぶ。

 これは喜ばしい事なのだが、そのを追ってマイケルがやって来る。

 初対面の時に、自分の存在を無視しに抱き付いた男。

 加えて、ライバルは藤真と神くらいだと吐き捨てた男。

 に馴れ馴れしいのも不愉快だったが、が藤真と神の事を話していたと言う事も不愉快だった。

 藤真や神のように、3年前に何があったのかなんて知らないし知る由もない。

 加えてこの2年間、この二人の留学生は自分の知らないを見て来たのだ。

 嫉妬に近い感情が頭の中を回っていた。

 一つの事を考えていると時間が経つのは早い。

 ホームルームが終わり、体育館に向かう。

「流川君。」

 呼び止められて、あからさまに不機嫌な顔をした。

 背の高い流川に見下されて怖気づかない辺り、エリオルは肝が据わっているのかも知れない。

「これから部活なんだよね? 体育館まで一緒に行ってもいいかな?」

 嫌だと言っても付いて来るだろう。

 流川は返事をせず、歩き出した。

 エリオルはやはり、付いて来た。

 何も言葉を交わす事もなく黙っている流川に、エリオルは首を竦めた。

「普通、留学生にはもっと気を使う物なんじゃないのかな〜。」

 流川は無視を決め込んでいた。

 グレーの瞳が、流川を見据える。

「…何も聞かないんだね。」

「…何がだよ?」

 流川が答えたことに少し驚きつつ、エリオルは続けた。

の事だよ。 気になっているんじゃないのかい?」

 流川はもう何も言わなかった。

 気になってはいるが、エリオルに聞いても何にもならないと思ったからだ。



「Yo!」

 体育館のドアを開けたら、派手な金髪の派手なダンクが目に映った。

「Hey! You're late!」

 学ランは脱いでいたが、マイケルは制服姿だった。

「何でテメエがここにいるんだよ。」

 がすまなそうに首を竦めた。

「着いて来ちゃって… 練習の邪魔はしないように言ってあるから許してくれる?」

 上目使いに見上げられて断れるはずなどない。

 流川は不機嫌を丸出しにしていたが、それに負けず劣らず不機嫌な男がもう一人いた。

 三井寿。

 何かとにまとわり付く、マイケルが気に入らないようだ。

 ちらっと、横目で見る。

 はエリオルに何やら話をしていた。

 はマイケルに対しては少し警戒しているようだが、このエリオルには気を許しているようだ。

 それが気に食わないなどとは、口が裂けても言えない。

!」

 二人の間を割るように、マイケルが話に加わる。

 一言二言話をしただけで、マイケルは体育館から出て行った。

((何しに来たんだよ…))

 流川と三井が同時に溜息を吐いた。

 初日でこんなに疲れていて、2週間無事に過ごせるだろうか。



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