文化祭



「君! 可愛いから、まけるよ!」

「え〜、いくらですか?」

 にっこり微笑むに、呼び止めた男子生徒の鼻の下が伸びる。

「あ〜、もう! 俺の奢り!!」

 焼き立てのたこ焼きを、ずいっとに差し出す。

「わ〜いv ありがとうございますv」

 中々の上機嫌。

 は、翔陽高校の文化祭を満喫していた。

「一つ食べますか?」

 何やら不機嫌をかもし出している三井に、声をかける。

 三井は何も言わずに、一つを口に入れた。

「他校の文化祭に一人だと行き難かったんですよ。 一緒に来てくれて、本当にありがとうございます。」

 三井の不機嫌には理由がある。

「どうでもいいけど、貰いすぎなんだよ…」

 男子生徒が皆、に自分のクラスの出し物をあげてしまうのだ。

「商売になってねえじゃねえか…」

 どこへ行っても、鳶色の髪とオッド・アイの少女は人目を引くらしい。

 に付き合って欲しい場所があると、誘われたのが昨日の事。

 流川や桜木ではなく、自分に言ってくれた事が何より嬉しかった。

 なりに、仲直りとして気を使ったのかもしれない。

「先輩、体育館行きません? バスケ部が、フリースロー勝負で、何かくれるみたいですよ?」

 一瞬、三井が引きつる。

バスケ部。

 やはり、目当てはそれだった。

 翔陽高校文化祭。

 大きな垂れ幕が下がった校舎。

 翔陽を訪ねるのは、この間の練習試合以来である。

「ほら、三井先輩! 行きましょう!」

 元気よく手を引かれて、三井は断ることも出来ずに溜息を吐いた。



 弧を描いて、ボールがリングに吸い込まれた。

「ナイッシュ!」

 少女の声に藤真が振り返った。

「こんにちわ、先輩。」

 ニコニコと手を振っていると、不機嫌をかもし出している三井。

 藤真は細く笑った。

「いらっしゃい。 一勝負して行くかい?」

「いいえ、今日は大人しく見物します。 誰か上手い人来ました?」

「今から来る予定かな。」

 の声に、藤真が答える。

 それと同時に、勢いよく体育館のドアが開いた。

「たのも〜!!!」

 突然の大声に、はびっくりして振り返った。

「うるさい!」

 牧のゲンコツが炸裂する。

 清田は頭を押さえて、牧を見上げた。

「牧さん〜… 敵地に乗り込むんだから、これくらいの勢いは必要ですよ…。 ん?」

 翔陽バスケ部以外の姿がある。

「あ! ちゃんっ!!」

「こんにちわ。 清田君に牧さん。 それに宗ちゃんも。」

 が小さく頭を下げる。

「来ていたのか。」

 牧が呟いた。

「はい。 日本の学校の文化祭を見てみたくて。」

 藤真が牧を見据える。

 牧は口元だけで笑った。

「後で一本やるか。」

「おう。 逃げるなよ。」

 が目を輝かせた。

「やった♪ 夢の対決ですね!」

 嬉しそうに笑うの頭を、藤真が撫でる。

 連鎖反応のように、三井が不機嫌になった。

 いつもなら、それだけだった。

 めずらしく、神が眉を寄せた。

 嬉しそうに藤真に笑いかける

 コートに立つと、自分よりも藤真の方が、に近い気がする。

 同じ気持ちを、三年前にも味わっていた。

 誰よりも近いと思っていたとの関係が、一瞬で崩れた気がした。

「神さん?」

 清田が首を傾げる。

「藤真さん…」

 名を呼ばれて、藤真が振り返った。

「俺と、勝負しませんか? を賭けて。」

「? 宗ちゃん?」

 が首を傾げる。

 藤真は驚いたように、神を見据えた。

 神は真っ直ぐに、藤真を見つめたままだ。

(本気だな。)

 仕掛けられて、引く事は出来ない。

 に対しては、誰にも譲れないのは二人とも同じなのだ。

「いいだろう。」

 見えない火花が静かに散る。

 牧は溜息を吐いた。

 おろおろしている清田の隣で、やはりは首を傾げていた。



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