背中



「神さん〜! 神さぁん〜!」

 窓の外から、可愛い後輩が自分を呼ぶ声が聞こえる。

 の涙が止まらない。

 清田の勉強を見てやる約束だが、こんな状態のを放ってなどおけない。

「神さん〜! 入るっすよ?」

 5分も経っていないのだが、痺れを切らした清田は、神がしたように窓から入って来た。

「って、うおぅ !?」

 神が、女の子を抱き締めている。

 いくら察しが悪いと言っても、こんな場面を見れば。

「す、すみません………////」

 顔を真っ赤にして、俯いてしまう。

 神はクスッと笑った。

 一度の頭を撫でて、立ち上がる。

「信。 悪いけど、少し休憩でいい?」

 清田が頷いたのを見て、神は細く笑った。

「ココアでもいれて来るよ。 その間、を任せるから。」

 清田にそう告げ、神はドアノブを回した。

「え…ちゃんっ !?」

 一度を見て、神の方に視線を投げたが、神は階下に姿を消してしまっていた。

 清田は、頭の中が真っ白になった。

 先日、買出し中のと三井に出くわし、少しの時間だけ一緒に過ごした。

 清田にとっては憧れその物で、バスケをするキッカケだったとも言える存在だった。

 神に念を押され、バスケに付いての話はしなかったが、と過ごした時間が楽しかったのは事実だ。

 少なからず好意を抱いている相手が、目の前で泣いている。

 ただでさえ、バスケ一筋で女の子と接する時間のない清田は、どうしていいのかわからない。

「あ、ちゃん… えと… その…」

 何か言葉をかけなければと思っていても、何を言えばいいのか。

 困ったように頭を掻いた清田に、が嗚咽混じりに声をかける。

「…ゴメ、ナサイ…」

 溢れる涙を懸命に拭うが、涙はまだ止まらない。

 清田は胸が熱くなるのを感じた。

(女の子って、こんなに小さいのか…?)

 泣き続けるが、儚い存在に思えてならない。

 神のように、抱き締めてやれば…は落ち着くのだろうか。

(だ、だめだ! 俺は神さんみたいに、大人じゃねえ〜! ///// )

 抱き締めるのを想像しただけで、顔が熱くなった。

 実際に抱き締めたら、緊張し過ぎて、気を失ってしまうかも知れない。

 かと言って、このまま見ているだけなんて男としてのプライドが許せない。

 清田はのすぐ側に、背中を向けて座った。

「?」

 首を傾げるに、背中越しに声を投げる。

「俺は! 神さんみたいに胸なんか貸せね〜からな! 背中で我慢しろ!」

 照れているためか、言葉が乱暴になってしまった。

 きょとんとしていただが、耳まで真っ赤になっている清田が可愛くて、その言葉が嬉しかった。

「………ありがとう。」

 清田の背中に顔を寄せた。

 大きな背中は不思議と温かかった。



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