失踪



 湘北高校。

 朝、校門の前で見知った顔を見つけた。

「神?」

 三井は眉を寄せた。

 神は三井の声に振り返り、挨拶もそっちのけで口を利いた。

を! 知りませんか?」

 神の慌てた様子と、突然の問いに三井は面食らう。

がどうかしたのか?」

 三井の返答に、神は唇を噛んだ。

「…昨日の夜から、姿が見えなくて……… 藤真さんも、知らないみたいで………」

 神の視界が揺らいだ。

「っ! おい!」

 ふらついた神を、慌てて支える。

「…すみません。」

 よく見ると、真っ青だ。

「お前、寝ないで探してたのか?」

 三井の声に、沈黙で答える。

が心配なのはわかるけどな、そんなんじゃ、を見つける前にお前が参っちまうぞ?」

「いいんです、放っておいて下さい…」

 神は三井の腕を振り払って、歩き出した。

と、その時。

「神さんっ!!!」

 駆け寄って来た清田が、肩で息をしながら神の名を呼ぶ。

「俺も探します! 一人でも多い方が、早く見つけられると思うし、それに、俺… ちゃんに謝りたいんです!!」

「うるさい!!!」

 三井は驚いて神を見た。

 温厚な神が、本気で怒っている。

「お前はかかわるな! 俺の前に、姿を見せるんじゃない!!」

 危ない足取りで歩き始めた神。

 清田は泣き出しそうな顔で、その背を見送っていた。

「…何があったんだ?」



「遅かったか…」

 藤真は溜息を吐いた。

 前に一度、と来た場所。

 そこにの姿はない物の、花が添えられていた。

 藤真はその場に膝を折った。

 答えがないとわかっていても、言葉が出る。

「…樋口、ちゃんがいなくなったんだ。 お前なら、どこにいるのかわかるんじゃないのか?」

 風に髪が揺れる。

「泉沢にも、体育館にもいなかった。 ここにもいない… 心当たりは全部探したんだ………」

 今の心境のせいか、花が泣いているように見える。

「どこに行ったんだよ、………」

 やるせない声は、高い青空に消えて行った。



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