「さて。」

 仙道が、ゆっくり立ち上がった。

「いいですよ、入って来ても。」

 突然の言葉に、は首を傾げて仙道の視線の先を見つめた。

 気まずそうに、頭を掻きながら入って来たのは。

「…三井、先輩………」

 驚いた様子のに、仙道が笑顔で答える。

チャンの後を追いかけて来てたのは知ってましたけど、俺の家まで来ますか。」

 小さく笑う仙道に、三井が無愛想に言う。

「うるせぇ。 これでも俺だってずっと心配してたんだよ。」

 は三井をじぃっと見つめるが、その視線に気付いていながら、三井は目を合わせようとしない。

「もしかしてイヤラシイ事心配してました? 俺は紳士だから、大丈夫ですよ。」

「…そんなんじゃねぇよ。」

 からかわれている様な声に、三井はぷいっとそっぽ向いた。

「三井先輩。」

 の声に、視線を移す。

「ありがとうございます。」

 にっこりと、微笑んだ。

「…そんなんじゃねぇよ。」

 無愛想に視線を反らした。

「照れちゃって… 可愛い反応するじゃないですか。」

「うるせぇ。」

 仙道に悪態付いて、をじっと見つめた。

「あー、その…」

 ぽりぽりと、頭を掻く。

「…帰るか?」

「………はい。」

 一度、仙道を見上げる。

「ありがとうございました。」

 につられて、仙道も笑顔で頷いた。

「いえいえ。 またゆっくり遊びにおいで。」

「はい。 お邪魔しました。」

「三井さん。」

 に続いて、外に出ようとしていた三井を呼び止める。

「俺の話聞いてましたよね?」

 に聞こえない程度の声で、続ける。

「自分の感情のままに動くのもいいと思うけど、少し大人になりましょうよ。 余裕のない男は、カッコ悪いですよ?」

「てめぇに言われなくても、わかってる。」



 少し離れて、三井の後ろをが歩いている。

「…大丈夫か?」

 後ろは振り返らずに、に問う。

「その… 神と顔を合わせるのがやだっつうなら、どこかで時間潰したりだな…」

 極稀に見せる、不器用ながらも優しい言葉。

 はゆっくりと手を伸ばし、三井のパーカーの裾を、ぎゅっと握った。

 突然引っ張られて、足を止める。

…」

 振り返るより先に、背中に心地よい重みを感じた。

 は、三井のパーカーの裾を握って、その背におでこを寄せている。

 閉じた瞳を、ゆっくりと開いた。

「…一緒に、来てくれますか?」

 気のせいだろうか?

 心なしか、の声が震えているように聞こえる。

「当たり前だろ。」

 こんな風に、に頼られたのは初めてだ。

 いつもこの位置にいたのは、藤真と神。

 の中で、何かが変わろうとしてる。

 きっと怖くて仕方ないだろう。

(俺が支えてやらねえと。)

 背に感じる温もりに、三井はゆっくりと息を吐いた。



back