「…オイ、どうなってんだよ。」 三井がいらただし気に吐き捨てた。 いや、不満を感じているのは三井だけではない。 「中学時代の先輩って言ってたし、積もる話があるんじゃないんですか。」 あっさり答えたように思えた宮城だったが、表情が引きつっている。 着替え終えて戻ってきて早10分、体育館の一角で親し気にと藤真がじゃれ合っている。 今や湘北のアイドル的存在で、バスケ部には欠かせない癒し系のマネージャー・を独り占めされているのだ。 不満に思うなとは、無理がある。 「さんが、翔陽の補欠と………」 桜木はボールを持ったまま、怒りと嫉妬に体を振るわせている。 5分後には試合が始まると言うのに、藤真と楽しそうに話しているが気になって練習にちっとも集中できない。 (((藤真…ぶっ潰す!!!))) コレはコレである意味燃えているが、彩子は溜息を吐くしかなかった。 (っんとに、こいつ等は…) こんな、どうしようもない部員達を今まで面倒見ていた赤木が偉大な存在であった事を、改めて思い知らされた。 「! いい加減に、こっちに戻ってらっしゃい!」 手に追えないと言うのと、これ以上時間が経てば藤真が殺されるかもしれないと言う2点から、彩子が大きな声で言った。 彩子に呼ばれて、はやっと湘北側のベンチに戻って来た。 「もうダメじゃない、安西先生に監督を任されたんでしょ! 敵チームの監督と仲良くしてる場合なんてないんだからね!」 彩子に軽く怒られて、は首を竦めた。 「ご、ゴメンなさい…」 気を取り直して、勝つための作戦会議を開く。 スタートは、D三井・C宮城・G流川・H桜木・F角田。 「タイムは、状況を見て私が判断します。」 が5人を見比べて、微笑んだ。 「なるべく早く、翔陽の#4を引っ張り出して下さい。」 翔陽の#4、藤真の事である。 4人の闘志に火が点いた。 (((…ぶっつぶす!!))) 先程の事を根に持っているのだろう。 一気に目つきが変わる。 ピ―――。 笛が鳴った。 「只今より、翔陽高校対湘北高校の練習試合を行います。」 審判は翔陽の1年だ。 「「「しゃす!」」」 ジャンプボール。 翔陽はやはり花形で、対する湘北はリハビリ明けの桜木。 湘北のベンチ、彩子は複雑な表情で隣に座る少女を見つめていた。 (…やっぱり、すごいわ。でも…) 身長差が開くから、E安田ではなくF角田を出して、H桜木と一緒に敵チームのセンター・花形にダブルチームでつける。 コレがが提案した初めの作戦である。 「ねえ、。どうして桜木花道を?」 リハビリ明けでまともな練習はしていない。 そんな桜木を花形につけて大丈夫なのだろうか。 はコートを見つめたまま、はにかんだように笑った。 「桜木君は負けず嫌いだから、上達が早いんです。 この試合でどこまで感を取り戻せるのか、試したいんですよ。」 きっと安西先生でも同じ事をするだろうと、彩子は思った。 「ふぬっ!」 ジャンプボールは桜木が取った。 ((相変わらず、よく跳ぶな…)) 両チームの監督が感心した。 ボールを追って、流川が走る。 「どあほう。また、誰もいない所に…」 ぶつぶつと文句を言いながらボールに追いつくと、流川はそのままゴールに向かった。 「打たすか!」 シュートフォームに入った流川をブロックしようと、#8高野が飛ぶ。 流川のシュートはフェイクだった。 3Pラインに構えた三井に、パスを出す。 「…甘いな。」 藤真が笑った。 流川のパスボールは完全に読まれいて、#6長谷川にカットされた。 「よし! 速攻!!」 花形がパスを貰ったと同時に、走り出す。 「来い、メガネ! 天才が相手だ!」 ゴール下で桜木が咆えた。 花形は細く笑って、跳んだ。 桜木も、ブロックのために跳ぶ。 「くらえ! ゴリ直伝ハエタタキ!!」 バッチィッ!――― 彩子はこの時、この日何度目かわからない頭痛を感じたと言う。 ピィ―。 笛が鳴った。 「ディフェンス! 白・10番!」 リハビリを終えての初試合。 開始わずか80秒で桜木花道、早くもファウル一つ。 |