「こ、こんなはずじゃあ………」 後半、桜木はベンチで試合を観戦しながらグチグチと文句をこぼしていた。 ハデに復帰戦を勝利する予定だった。 リバウンド王の名にかけて、天才の名にかけて。 「あの、さん…」 桜木はもごもごと口篭もりながら、ちらっとを見た。 は試合を見ながら、何やらメモを取っている。 桜木は同じように視線をコートに移した。 丁度、宮城から流川に、流川から三井にパスがいった所だった。 パシュッ。――― 気持ちのいい音がして、ボールがゴールに吸い込まれて行く。 「後半、まずは先制点ね!」 彩子がガッツポーズをした。 「この試合、5本目のスリーポイントですね。」 が嬉しそうに言った。 桜木はうずうずしながら、試合を見ている。 湘北のディフェンス、簡単に上からのパスを許してしまっている。 #8のシュートを、流川がブロックした。 「リバウンド!」 藤真の声と同時に、花形が跳んだ。 ボールを取り、そのままリングに叩きつける。 ハデなダンクだった。 「あ〜、何やってんだお前等〜!!」 桜木が勢いよく立ち上がり、ふざけるなとばかりに声を上げる。 「桜木君、ココよ。」 がコートを見つめたまま、桜木に言う。 「はて?」 桜木は意味がわかっていない様子で、首を傾げた。 「リバウンドよ。 点の取り合いなら、湘北は負けてないから。」 がペンの先でコートを指した。 「ただ、リバウンドが取れない。 それだけで、オフェンスのチャンスを逃してるの。」 桜木は黙って、の話を聞いていた。 「前半は黙って見てたけど、初歩的なミスが多いよ。 ファール3つも取られてる。」 が指で3と示して、桜木はぐっと言葉を詰まらせた。 パシュッ。――― 流川のシュートが入った。 「あ。」 が目を丸くした。 「後半の方が、調子がいいんですか?」 彩子に訊ねる。 「ああ、流川ね。」 彩子はどう答えるべきか、苦笑った。 「違いますよ、さん! アイツは体力がないんです、この天才と違って。」 桜木が踏ん反り返って笑った。 コートから、流川が睨んでいる。 「桜木君、よく見て。」 がコートを見つめたまま続ける。 「ゲームの流れを体で感じて。 勘を取り戻せば貴方は、絶対に強くなれるから。」 後半、流川は絶好調だった。 スティールからの速攻に、翔陽はペースを狂わされていた。 花形のダンク以降、3分間ノーゴールである。 点差は 36ー30 と、徐々に詰まって来ている。 「やっぱり、第一の流れを変えるのは、流川君ですね。」 が感心したように流川を誉めたので、桜木はますます面白くない。 「リョーチン、ミッチー! 何やってんだ! キツネにいいカッコさせんじゃね〜!!」 後半開始5分。 完全に、湘北ペースだった。 ピピー。 「メンバーチェンジ! 翔陽!」 笛の音で、湘北メンバーに緊張が走った。 「…もう出るの?」 彩子が翔陽のベンチを見る。 藤真がコートに入り、#9伊藤がベンチに収まった。 藤真は翔陽のメンバーを一通り見回して、細く笑った。 「どうした? また、負けるつもりか?」 その言葉に、メンバーの表情が変わった。 「マズイわね。 せめて、同点だったら手の打ちようがあるのに。 …ん?」 彩子が小さく呟いて、首を傾げた。 藤真のウィンクに答えるように、が笑顔で手を振っている。 (もしかして…) がいるから、リードしているにも関わらず、藤真は出るのではないだろうか? 彩子はそんな事を考えて、まさかと自分に言い聞かせた。 (((あの、ヤロー…また…))) を取られたようで面白くない。 湘北に、火が付いた。 「あ、皆燃えて来ましたね。」 が笑顔で彩子に言った。 「…、もしかして………?」 (かなり、ニブイわね。) 単純な部員達に、鈍感なマネージャー。 (一波乱あるわね…) 彩子が楽しそうに笑った事は誰も知らない。 |