「先輩、どうぞ。」 がそう言って三井にタオルを渡した。 「悪いな。」 三井は受け取って、がしがしと頭を拭いた。 「ったく、傘の意味がなかったな。」 全身ずぶ濡れで、三井は一つくしゃみをした。 を送って行くまでは良かったのだが、予想以上に天候が荒れたため、家に上げてもらったのだ。 三井はそわそわした様子で、辺りを見回した。 (………落ち着かねえ。) 家に人の気配はなく、雨音以外の音はない。 「、家の人は帰ってないのか…?」 三井は期待半分、緊張半分で聞いた。 「私、一人暮らしです。」 はパタパタと脱衣所に入ると、急いで湯を沸かした。 「先輩、先にどうぞ。 着替えは出しておきますから。」 にバスタオルを渡されて、三井はすぐさま拒否した。 「お前の家なんだ、お前が先に入れ。 風邪引くだろ。」 は困ったように三井を見上げた。 「送ってもらいましたし、先輩を濡れたままにしてなんておけませんよ。」 微笑むに、三井はそれでも駄目だと言い張る。 はにっこりと微笑んだ。 「どうしても先に入れと言うなら、先輩も一緒に入って下さい。」 三井はぎょっとして、耳を疑った。 「さ、どうします?」 表情は穏やかだで本心なのか表情が読めない。 三井は口をパクパクさせて、言葉を探した。 水の滴る髪、微かに透けた制服…。 三井はかぁ〜っと赤くなって、からバスタオルをふんだくると、バスルームに入って行った。 元不良・三井寿。 彼は意外に、純情だった。 風呂から上がった三井は、そわそわした様子でアチコチ歩き回っていた。 (………落ち着かねえ。) 父親の物であろうか置いてあったシャツとズボンに身を包み、ソファーに座ってテレビを付けたり、置いてあった雑誌に手を伸ばしたりするが続かない。 が用意していたのであろうか、食欲をそそる匂いが鼻に付く。 広いリビングを見回して、意外と物がない事におどろいた。 (この家に、一人で住んでるのか?) 淋しくないのだろうか… 三井はハッとした。 このシチュエーションは、ヤバイ。 (お、落ち着け、俺!) バクバクと激しく鼓動する心臓を落ち着かせようと、胸の辺りを強く掴んだ。 気になるヤツと、ヤツの家で2人きり。 ただの部活の先輩後輩、しかし男と女。 やばくない訳がない。 (…とりあえず、雨が少し小降りになったら帰………) ガチャ。――― ドアの開く音に驚いて、三井は振り返った。 「食事の支度しますね。 もう少し、待っていて下さい。」 バスタオルで髪を拭きながら入って来て、はすぐにキッチンに向かった。 横を通った時に香った石鹸の匂い、ほのかに赤く色付いた頬や首筋が視界に入って、三井は真っ白になった。 シャツの裾を一度ぎゅっと握って、に近付く。 邪魔になるから纏めた髪、覗く項が何とも言えず色っぽい。 手際よい包丁さばき、かなり料理に慣れているようだ。 三井はの背後に回り込み、抱き締めたい衝動に狩られて、ゆっくりと手を伸ばした。 「…!」 気配に気付いたのか、が振り返った。 「どうかしましたか?」 首を傾げて微笑むに、三井は伸ばしかけた手で空を掴んだ。 「………何でもねえ。」 (…コイツに、そんな気はねえんだよな………) がそんな女だったなら、自分はこんなにもを意識なんてしなかったであろう。 三井は食卓の椅子に腰掛けて、作業に戻るをじっと見つめていた。 (…情けねえな。 何欲情してんだか………) 三井は壁に掛けられた時計に目をやった。 8 時 25 分。 (…理性が切れる前に帰ろう。) 雨は止むどころか、勢いを増していた。 |