冷たい雨



―――――君は今どこを歩いて 何を見つめているの?

        いつか話してくれた夢 追い続けているの?





 髪が、肩が、雨に濡れて行く。

 涙が溢れそうになるのを、ぎゅっと…堪える。

「…泣かないって、"約束"したから。」

 人通りのない、暗い道。

 いつも。―――

 独りだった。

 寂しいとか、哀しいとか、そんな事考える事もなかった。

 物心付いた時に、親は既にいなかった。

 気が付けば、いつだって独りだった。―――





―――――君はいつもこんな場所で こんな景色を見て

        どれくらいの不安と迷いと 戦ってたの?





「私は、何もしてあげられなかったね…」

 溜息混じりに呟かれた言葉は、雨音に交じって消えて行く。

「…ゴメンね、今なら…わかるよ。」

 自分の気持ち。

 君を見て、大好きだって言ってくれた笑顔で、君を見て…

 君が好きだって、はっきり言える。





―――――ひとりになって初めて わかる事が多くて





 寂しいと思うようになったのは。

 哀しいと思うようになったのは。

「………君と、会ってからなんだよね。」

 胸元の虚しい感じ。

 いつも下げていたネックチェーンは、今はない。

 指輪の先に付いた赤い石、にきっと似合うからと言って、少年は笑った。

「ずっと、一緒だって…言ってくれたのになぁ………」

 思い出の中の一年は、永遠だと信じて疑わなかった。





―――――この手を離さずにいれば どこまででも行ける気がした





「私は、何も知らなかったよ… それでも君は、笑ってくれたよね。」

 一日だって忘れた事がなかった筈なのに、その笑顔が今は思い出せない。





―――――同じ道歩いて行くと 疑う事もなく信じた





―――――どうしてそれなのに 私は





―――――だけど 私は





「ねぇ、どこにいるの…」

 冷え切った擦り切れた小さな手。

 探し物は、まだ見つからない。

「…会いに来てよ。」

 知らずの内に、涙が溢れている。

「…どこにいたって、飛んで来てくれるんでしょう。」



―――――約束は覚えているの

        忘れた日はないの





 いつも笑顔でいて欲しい。―――

「…ゴメンね、"約束"……… 守れないよ。 君がいないのに… 笑えないよ。」

 冷たい雨が、少女に降り続ける。



 限界だ。―――

 もしかしたら、笑えるかも知れない。

 そんな淡い希望を求めて、日本に戻って来た。

 思い出の中の少年を見つければ、笑えるかも知れないと思った。

 でも、現実は泣いてばかりで。

 藤真や神に、甘えてばかり。

 人を傷付けて、それでも過去の事は口に出来なかった。

「もうダメだよ… 私、疲れちゃったよ…」

 再び日本を離れようか。

 そんな考えがふと、頭を過ぎった。



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