挑発



「 Yo ! 」

 昼休み、三井に声をかけたのはマイケルだった。

「 Go ! 」

 眉を顰めただけの反応をした三井を、強引に連れ出す。

「オイ、どこ行くんだよ!」

 大声を張り上げる三井に構わず、マイケルは鼻歌を歌っている。

 たどり着いたのは、屋上。

「屋上でランチもたまにはいいだろう?」

 首を竦めてウィンクするマイケルに、三井は溜息で答えた。

 マイケルは柵の所へ歩み寄り、一箇所だけに視線を注いでいた。

「よく見えるぜ、のクラスが。」

 三井はぴくっとしてマイケルを睨み据えた。

「…俺に何が言いたいんだよ?」

 皮肉に言う三井に、マイケルは細く笑っているだけだった。

が好きなんだろ? 喧嘩してる方が、都合がいいんじゃねえか。」

 何がおかしいのか、マイケルは腹を抱えて笑い出した。

「 Hey ! 何だ、ヤキモチか?」

 はっきりと言われ、否定する事も肯定する事も出来ず、三井は黙ってしまった。

「エリオルの奴は、まだガキなんだよ。 一々気にしてると、胃に穴が空くぞ?」

 三井は心外だと言うばかりに眉を寄せた。

「てめえも気にしてたじゃねえか。」

「まぁな。 オレもまだガキって事だ。」

 金髪が風に揺れる。

 ふと、三井は首を傾げた。

「…日本語、上手くねえ?」

 マイケルは細く笑った。

のために覚えた。 アイツ、会ったばっかの頃、英語話せなかったからな。」

 三井は、ぎゅっと拳を握った。

「…アイツ、何でアメリカに………」

「 Stop ! 」

 マイケルは片手を出して制した。

「本人に聞けよ。 オレが教えてやる義理はないぜ。」

 マイケルは視線を移した。

 のクラス。

 のとなりには、エリオルの姿が見える。

「オレ、女にマジになったの、初めてなんだぜ。」

 右手をすっと伸ばし、銃を撃つような真似をする。

「 Bang ☆ 」

 振り向いて、ウィンクする。

「オレじゃ、は靡かなねえ。 かと言って、エリオルやフジマ、ジンにやる気もねえ。 ヒサシ、お前にならくれてやる。」

 三井は思いっきり首を傾げた。

「お前は、エリオルに嫉妬してた頃のオレに似てる。 だから、少し言ってみたくなった。」

 人懐っこい笑顔で、マイケルが言った。

 三井を指差して、続ける。

「そんでオレが、お前からを奪ってやる! 覚悟しろ!」

 肩の荷が下りたようなそんな錯覚を覚えた。

「…おう。」

 小さくガッツポーズをする三井に、マイケルは意地悪く笑った。

「まずは、謝るのが先だな。 もう三日も経ってるんだぜ?」

 肩を震わせて笑うマイケルに、三井は肘で小突いた。

 まだ空が高い、秋だった。



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