寄り道



「諸星先輩〜! 可愛い女の子が呼んでますよ。」

 後輩の声に、諸星が振り返る。

「お前なぁ、可愛い女の子が俺なんか探してるはずな………」

 言いかけて、言葉を飲み込む。

「こんにちわ。」

 驚く諸星に、笑顔で挨拶する。

ちゃん? うっそ〜、久しぶり! 元気!?」

 諸星は嬉しそうに、に笑いかけた。

 諸星は、樋口の従兄弟に当たる。

 三年前に、色々世話になっていた。

「よし! 今日はもう練習終わり! 後は、各自居残り練習をしておくように!」

 テキパキと指示を出す諸星に、が小さく笑った。

「俺着替えて来るから! ちょっと、練習見ててよ。 良かったら、アドバイスもしてあげてね。」

 の肩をぽんと叩いて、諸星は脱兎の如く去って行った。



「じゃぁ、足はもう大丈夫なんだ? 良かったね。」

 にこにこと笑いながら、諸星が続ける。

 二人は今、ディッパーダンでクレープを食べていた。

「あ、さっきから俺ばっかりしゃべってる… ごめんね、久しぶりだから嬉しくてさ。」

 諸星がバツの悪そうに、頭を掻いた。

「今は、どこの学校通ってんの? 今日は、愛和学院に何しに来たの? 俺に会いに来た?」

 ふざけて笑う諸星に、が頷いた。

「ちょっと、大阪に行って来て… 久しぶりだし、諸星さんにも会いたいなって思って。」

 の言葉に、諸星の瞳が輝いた。

「本当に? すっげー嬉しい! でも、一個だけお願い!」

 諸星が続ける。

「昔と同じように、俺の事呼んでよ。」

 は少し考えて、小さく笑った。

「………大ちゃん。」

 諸星は上機嫌で笑った。

「何? アイスも食べる? 何がいい?」

 相変わらず、年下に甘いお兄ちゃんのようだ。

「はい。」

 にアイスを押し付ける。

「渡したい物があるんだ。 家、寄って行ってよ。」

 促されるまま、足を向けた。

 愛知の町並みは、大きく変わっていない。

 無邪気に笑う子供達の声を聞きながら、諸星が笑顔を見せる。

 三年が経って、あの頃と変わってしまったのは自分だけみたいに思えて、少し切なくなった。



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