「オイ………」 廊下を歩いている途中に声をかけられ、樋口が振り返る。 「何や?」 翠だった。 「これ。」 無愛想にずいっと差し出すのは、薄手のパーカー。 「あ、おう。」 パーカーを受け取る。 「ん?」 何か言いたそうな翠に、首を傾げる。 「あ、あ…」 翠は目をきつく閉じて、言葉を飲み込んだ。 「何なん?」 樋口が気味悪そうに、眉を寄せる。 「…パーカー、サイズ合わないんじゃない?」 一瞬、樋口は言葉に詰まったが、すぐに反論した。 「これからデカなるからエエんや! 何や、オレを見たらイヤミしか言わんのか! 大体男物のサイズがぴったりて、女にしてはでか過ぎるんちゃう?」 「うるさい、チビ!」 朝から言い合いを始めた二人を見て、が小さく笑った。 「"ありがとう"が言えないんだね。」 |