気持ち



ちゃん?」

 突然の声に、は振り返った。

「樋口くん!」

 いつも別れる公園の前。

 車を見送っていたを、樋口が見つけたのだ。

 樋口はかける言葉に迷った。

 似合ってはいるが、明らかにの趣味ではないだろう洋服。

 ひらひら、ビラビラ。

 そんな表現が適切な、よそ行きの格好だ。

 樋口は、少し首を傾げた。

「えらい、めいこいなぁ。 何かあったん?」

 樋口の問いには答えず、は眉を寄せた。

「樋口くん、大丈夫?」

 心配そうな声。

 樋口は小さく首を振った。

「大丈夫や。 ほら、今もコンビにまで行って来た帰りやし。」

 と、の目線まで、コンビニの袋を上げる。

「そう言えば、昨日の台風すごかったなぁ。 帰り大丈夫やった?」

が頷く。

「ん。 ボスと一緒だったから、大丈夫。」

 そのまま、一晩お世話になった事、今日も一日一緒だった事などを話した。

「あとね、ボスがね、私の事、名前で呼んでくれたんだ。」

 そう言うは、どこか嬉しそうである。

「…楽しかったか?」

 樋口の声に、大きく頷く。

「良かったな。」

 そう言う樋口は、少し引きつったように見える。

 いつもの、勝気で強気な様子とは掛け離れた、どこか淋しそうな雰囲気。

 が、樋口の袖を引いた。

「どこか痛いの?」

 不安に揺れる瞳。

 樋口はふわっと、を抱き締めた。

「樋口くん…?」

 首を傾げるに、ただ首を振る。

「炎や。」

「え?」

「炎。 名前で呼んでや…」

 少し唇を噛んだ。

 何故か少し切なくて。

 気が緩んだら、涙が出そうだった。

(もう自分の気持ちに、嘘は吐かん。)

 が楽しそうに藤真の話をしている時、明らかに不愉快だった。

 嫉妬。

 その言葉が適切だろう。

 の髪を撫でる。

(オレは、ちゃんが好きなんや。)



back