「あれー? ボスは?」

 一人で更衣室から出て来た樋口を見て、竜が首を傾げる。

 樋口が同じく首を傾げているに、にっこりと笑いかける。

「ボスな、さっちゃんに呼ばれてんのや。 先に帰れって言われたわ。」

 樋口のソレは嘘で。

 藤真はまだ体育館にいた。

「そうなんだ? じゃ、ボク帰るね☆ また明日ー!」

 竜が大きく手を振って駆け出した。

「お疲れ、また明日な!」

「バイバーイ!」

 手を振って見送る。

 と樋口が校門を出て、並んで家路に付いている時も、藤真はまだ体育館にいた。

『自分の本当の気持ちも言わんで、そうやって逃げてるのは、ズルイんちゃうか?』

 樋口に言われた言葉の意味を、ずっと考えていた。

自分の気持ち。―――――

逃げる?

 藤真を射抜くように真っ直ぐに見つめた、強い輝きを秘めた瞳。

『…は渡さん。 死んでも、お前にはやらん! 絶対や!』

 樋口の声が、いつまでも耳に響いていた。

 あそこまで自分に正直になれる樋口を見ていると、少し、羨ましかった。



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