a letter for ...



 前の晩。

 早めに宿題を片付けようと鞄を開けて、見覚えのない物が入っている事に気付いた。

「何や? 手紙???」

 差出人の名前はない。

 シンプルな和紙作りの封筒。

「困るわ〜、ラブレターか?」

 ちょっとにやけて、封筒を開けた。

 折りたたんであった便箋を開いて、読み始める。

「ん…?」

 の字。

「いきなりどうしたんやろ…?」

 少し首を傾げながら、綴られている文字に目を走らす。





口では上手く話せないから、手紙に書きました。

だまって鞄に入れてごめんなさい。

炎くんに、「最後に泣いたのがいつか?」

そう聞かれて、少しびっくりしました。

自分でもちゃんと覚えてないくらい、泣いてないから。

泣けないんだ。

私、泣けないの。

こう言ったら、「何で泣けないのか?」

炎くんはそう聞くと思う。

理由は、私が生まれてからこれまで生きてきた環境だと思う。

炎くんになら、話してもいいかなって思えたから。

本当のこと話しても、炎くんは、私をそう言う風に見ないと思うから。

知りたくないなら、ココまでで読むのを止めてください。











 後悔した。

 その言葉が適切なのかはわからないが。

 きっと、を傷付けた。

 もちろん、中途半端な気持ちで聞いた訳ではない。

 それをわかっているから、はこうして手紙を書いたのだと思う。

 ふと、左手の小指をじっと見る。

「コレに気付いたからなぁ…」

『君も何か秘密を抱えている。』

 と一緒に暮らしている叔母に、見透かされた。

 誰も気付かなかった、の持つ心の闇。

 力になれるなら、助けてやりたいと思った。

 は気付いてないだろうが、何度救われたのかわからない。

 強がっている時に、笑顔で慰められて…。

 一度や二度じゃなかった。

 が側にいてくれた事が、すごく嬉しかった。

「…重いなぁ。」

 が、自分の事を教えてくれたのは嬉しかった。

 自分だけが頼られている。

 それが嬉しいのも事実だが。

 一つ、溜息が漏れる。

「重すぎて潰れそうや…」

 いつも笑顔でいる

 いつも、笑顔でいなければならないと思っている、弱みを見せられない

 何でも頑張る、出来すぎた12才。

 本心で甘える事が出来ない、小さく弱い少女。

 の気持ちを汲んで、樋口に一体何が出来るだろう。

「…オレが泣きそうや。」

 自嘲気味に笑った。



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