転校生



 練習続きだった、ゴールデンウィークが終わった。

「当然ながら、どこにも遊びに行けんかったわ…」

「はぁ〜… また、いつもの体育館か。」

 樋口に続き、翠がぼやいた。

「ん?」

 部室に向かう途中で、三人は足を止めた。

 他校の制服を着た少女が、何やらきょろきょろと辺りを見回している。

「………更科(さらしな)だ。」

 翠の声に樋口が首を傾げた。

「女子のインターハイ優勝常勝校だよ。 去年も圧勝だった。」

「なるほどな。」

 眉を顰める翠に、樋口が頷く。

(どっかで見た顔だな…)

 首を傾げる翠の脇をすり抜けて、は少女に近付いた。

「こんにちわ。 どうかしたんですか?」

 保健室での出来事以来、藤真が少しだけ優しくなった。

 あれ以来、体調はまぁまぁ良い。

 突然の声に、女生徒は振り返った。

「ん?」

 首を傾げて、視線を落とす。

 にこにこと微笑んでいる

 少女は、目をぱちくりした。

「ビンゴ!!」

 少女は突然を抱きしめた。

「めっちゃ可愛い〜v やった〜v」

 何がやったのか。

「???」

 少女に頭を撫でられながら、は首を傾げていた。

 樋口が笑いを堪えながら声をかける。

「放したれや。 首傾げとるわ。」

 少女ははっとしたように、を見つめた。

 鳶色の癖の付いた短い髪。

 不思議な緑色をした、左目。

ぎゅv

 放すかと思いきや、再び抱きしめる。

「コラ。」

 樋口のチョップが炸裂した。

「アンタ誰? 何しとるん?」

 を樋口に取られて、少女は面白くなさそうに口を尖らせた。

「…二年の転校生でーす。 初日目で、迷っちゃった。」

 悪戯好きの子供のように、べぇと舌を出す。

「バスケ部に知り合いがいるんだけど…」

 を見つめて、にっこりと笑う。

「お願い! 部室まで案内してちょーだいっ!」

 に視線を合わせて、両手でお願いのポーズ。

「はい!」

 二つ返事で頷いたに、翠が溜息を吐く。

〜、こう言う手口の誘拐とかあるからね。 騙されないでよ? って言うか、いつまでくっついてんのさ!」

 に引っ付いたままの樋口に、回し蹴り。

「甘いわ! 何度も同じ手を食うか!」

 ひらりと避けて、樋口が駆け出す。

「亀さんノロマさん、おっさき〜♪」

「待て、チビ!!」

 樋口を追って、翠が駆け出した。

「樋口くん、翠ちゃ〜んっ!」

 は駆け出そうとして、足を止めた。

「こっちです。 行きましょう。」

 にっこり笑ったに、少女はつられて笑った。

「可愛いね〜v アメ食べる? ボクね、竜って言うんだ。 名前教えてよ?」

 チュッパチャップスを、に差し出す。

「はい! 1年2組、です!」

 初対面とは思えない、空気。

 二人は手を繋いで、体育館へ足を向けた。



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