果たし状


「…はい。 それじゃ、失礼します。」

 職員室から一歩出て、藤真が小さく息を吐いた。

 担任と、進学先の話をした。

(大祐と真琴は… そのまま高等科だろうな…)

 首を振る。

(明後日で正式にバスケットも引退… 受験組みはもう遊んでいられないだろうな。)

 開いていた窓から、冷たい風が吹く。

 体育館が見えた。

(あそこに通うのも、あと少しだな。)

 少し感傷的になっている自分がおかしくて、自嘲気味に笑った。

 おそらく、樋口とが待っているだろう。

 体育館へ足を向けた。





「えー? マコちゃん、翠女行くの?」

 体育館のドアを開けた瞬間、翠のそんな声が耳に届いた。

「あ、ボス! おはにょー☆」

 竜が元気に手を振っていた。

 軽く微笑み返して、真琴に視線を移す。

「翠女って、翠蘭女子か?」

 有名な女子高である。

 真琴が頷いた。

「高校行ったら、大学の事考えて勉強だけに集中しようと思って。 親にもそう言われてるし。」

「そうか。 真琴なら問題ないだろう。 がんばれよ。」

 にこりと微笑んだ。

「うん、ありがとう。」

 翠がつまらなそうに唇を尖らせていた。

「ちぇーっ! 高等科進むのアニキだけか。」

「何だ、翠! 不満なのか!?」

 大祐が翠を睨む。

「キャプテンは翔陽受験でしたっけ?」

 京が首を傾げた。

「俺は…」

「うぃーっす!」

 藤真の言葉を遮って、樋口の元気な声が体育館に響いた。

 視線を移す。

「あ、おかえり〜! さっちゃん何だって?」

 竜が、樋口との元へ駆けた。

「ふふん♪」

 樋口はイタズラ好きの子供のような顔で、にやりと笑った。

「受け取れや!」

 と、何か投げる。

パシッ。

 藤真が眉を寄せた。

「は、果たし状…?」

 いきなりすぎる展開に、目をぱちくりさせる。

「明後日! 12/23 ! 午後5時! 場所はココや!」

 樋口がびしっと藤真を指差した。

「3 vs 3 、 15 分のミニゲーム! 中学バスケ最後の思い出に、卒業生三人に試合を申し込む!」

 竜がびしっと、藤真を指差した。

「引退試合! 今までの恨み覚悟! けっちょんけっちょんけっ…? あれ? けっちょんけっちょー…?」

 首を傾げてしまったに、樋口が苦笑いした。

「決まらんなぁ…。 ケッチョンケッチョンにのしたるわ! や。」

「そう、それ! けっちょんけっちょんにのしてやる! 泣いても許さないから!!」

 びしっと、藤真を指差した。

シーン。

 静まり返る体育館。

「…ん? 3 on 3 って言ったか…?」

 大祐が真琴を見る。

「健司と…」

 くるっと体育館を見回すが、他に三年の姿はない。

「まさか…」

 真琴と大祐が顔を見合わせた。

「…」

 藤真が細く笑った。

「まったく、ナマイキな奴等だ。 啖呵切ったからには、覚悟は出来てるんだろうな。」

 藤真が乗った。

「おい、健司!」

 大祐の声に振り返る。

「足を引っ張るなよ! 大祐! 真琴!」

 二人の幼なじみの顔を見比べた。

「…やっぱり、私達なのね。」

 真琴が首を竦めた。

 藤真・大祐・真琴 vs 樋口・竜・

 対決は、二日後。


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