引退試合 2


 残り28秒。

「走れ!」

 竜の声に、樋口とが同時に駆け出した。

 両脇から抜かれた形になり、藤真に一瞬迷いが生じる。

ビッ。

 へパスを通した。

 はそのまま、樋口へパスを回す。

 速いテンポのパス。

 完全に、三年チームの虚を付いた。

「なめるな!」

 それでもマークが外れていない限り、やはり藤真と言ったところか。

 樋口が一瞬ゴールを見上げた。

(フェイクだろ、それは! でもって…)

 藤真は読んでいる。

「パスだ!」

 3Pライン付近まで走って来ていた竜に、パスを出そうとしていたが、それは読まれていた。

 樋口は細く笑った。

ビッ。

 へ、ボールを返す。

 竜を含め、コート上の全員が虚を付かれた。

 完全にフリーだった。

「行け!」

 竜が叫んだ。

パシュ。

 レイアップシュートが決まった。

ピィー。

 審判が笛を吹く。

「ゲームセット! 22 - 20 で、現役チームの勝ち!」

「よっしゃぁ! ナイスシュートやで、姫!!」

「ううん! 炎くんのリターン、すごくタイミングよかったよ!」

「相性ぴったんこじゃん! あそこでに戻すとは思わないもんにゃ〜。」

 三人がそれぞれ、互いを褒める。

「…ふぅ。」

 藤真が前髪を書き上げた。

(プレゼントゲームか…)

 三人の方へ、足を進める。

「いい試合だった。 ありがとう。」

 右手を差し出した。

「そっちこそ。 ごっつ楽しかったわ。」

 樋口が笑った。

 しっかりと、握手を交わす。

「でも、悔しい。 ボス一人に、振り回されてたもん。」

 がぷぅと頬を膨らませた。

「ああ。 一対一なら、俺の勝ちだったな。」

 少し意地悪そうに笑った。

 樋口との頭を撫でる。

「泉沢中バスケ部は、お前等に任せるぞ。」

 その声は、優しかった。

「卒業までは、練習を見に来るわ。」

 真琴が笑顔で言い。

「さぼるなよ。」

 大祐が茶化した。

「おう。 任されたわ。 でも、卒業までの指導は、頼んだで!」

 樋口が藤真を見上げた。

「当たり前だ。」

 色々、あったと言えばあったし。

 結局何もなかったと言えば、なかった。

 4月から今日までの日々、体育館で練習していた記憶ばかり、頭に浮かぶ。

「ボス、約束覚えてる?」

 が首を傾げた。

 一瞬、考える。

「高校で、の話か?」

 が頷いた。

「もちろん覚えているさ。」

 夏、高校の決勝戦を、二人を連れて見に行った時の事。

「「「 翔陽で全国制覇!! 」」」

 三人の声が揃う。

「待ってるぞ、樋口! !」

 藤真健司、佐倉大祐、黛真琴…

 泉沢学院中等科三年、正式にバスケット部を引退。

 冬の日だった。


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