「お、丁度始まるみたいやな。」 晴れた日曜日。 樋口炎率いる(?)男子バスケ部は、ベスト8の名もあり、シードを勝ち取っていた。 今から、女子の試合が始まる。 「藤真だ。」 見物人が藤真の姿を見て何やら囁いている。 中学バスケ関係者で、藤真健司を知らない者はいなかった。 泉沢男子バスケ部は、試合前の会場の視線を独り占めしていた。 「…おい、何だあの小さいの?」 樋口が耳をそばだてる。 「あれでバスケが出来るのか?」 小バカにしたような言い方。 樋口は、身長146cm 、体重は38kgしかない。 「背はこれから伸びる。 大事なのは技術だよ。」 にっこり笑った京に、樋口が頷く。 「わかっとる。 気にしとらんわ。」 (めっちゃくちゃ気にしてるくせにな。) 大祐が藤真に囁いた。 試合開始の笛が鳴る。 は、大きなユニフォームに身を包み、少し緊張した様子でコートを見ていた。 左肘のリストバンドを見て、口元が綻ぶ。 お守りとして、と樋口と揃いで買った物だ。 樋口の袖口の裾からも、同じものが覗いていた。 「…真琴の奴、大丈夫かな?」 大祐の言葉に、藤真が苦笑う。 「何なん? 大丈夫って?」 首を傾げる樋口に、京が首を竦めた。 「真琴さんね、極度のあがり症なんだよ。 試合で、絶対に実力を出せないタイプ。」 「アカンやん、そんなん…」 樋口はコートに視線を落とした。 「泉沢が相手なんて、二村中もついてるな〜。」 観客の声に、腹を立てながら。 「マコちゃん、パス!」 翠の声が高らかと響いた。 綺麗なシュートが決まる。 会場はざわついていた。 「11番、1年らしいよ。」 翠の事だ。 悪友とも呼べる相手が褒められて、樋口は面白くない。 実際の所、翠がいい動きを見せている。 前半、得点はわずかにリードしていた。 「…あかん。」 樋口の声に、藤真が反応する。 「…飛ばしすぎや。 後半、スタミナ持たんで。」 樋口は舌打ちして続ける。 「確実に狙われる。 アイツはもう、動けへんようになる。」 藤真が小さく息を吐いた。 自分と同じ点に、誰より先に樋口が気付いた。 |