初戦



 樋口が座席から、コートに飛び降りた。

「おめでとさん! さっすがや!」

 と手を叩き合って喜ぶ。

「泉沢! 選手以外はコートから出て下さい!」

 審判の注意が飛ぶ。

 藤真は胸を撫で下ろした。

 初戦。

 何とか、勝った。

 しかし。

「…厳しいな。」

 前半は翠のワンマンチーム。

 後半になって乱れ、の投入で、相手を乱した。

「藤真先輩!」

 不意に名を呼ばれて我に返る。

「明日からまたお願いします!」

 思いっきり頭を下げるに、口元が綻んだ。

さえよければ、今からやるぞ?」

「…ほんま鬼やな、今試合が終わったばっかりで………」

 樋口の台詞を、が遮った。

「はい! 着替えてきます! 待ってて下さい!」

 元気に二つ返事で頷いたに、樋口がぽかんと口を開けた。

「ちょ、ちゃん!?」

 驚いたままの樋口を他所に、は急いで更衣室に消えて行った。

 今のままでは、確実に二回戦突破は難しい。

 自身が、誰よりも実感したはずだ。

 動きは悪くない。

 ただ、シュートが入らない。

 シュート体制に入ると、ボールを放った瞬間に、全て叩き落される。

 聡明な少女はすぐにそれに気付いて、自分からシュートは打たず、上手くパスをさばいていた。

(身長ばっかりはな、俺にもどうにも出来ないからな。)

 溜息は、少女に送られた拍手の音に交じっては消えて行った。



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