波紋



 更衣室の中から聞こえる声に、翠が眉を寄せた。

 入り口を翠に阻まれるような格好になっていたので、が首を傾げる。

「翠ちゃん、どうしたの?」

 の声で我に返った様子で、何でもないと首を振る。

 ドアを開けた。

「ちーっす!」

 中では、三年の部員、4人がだらだらと着替えていた。

 翠の声に驚いたように振り返ったが、すぐに立ち上がって出て行った。

 ドアが閉まったのを確認して、翠が毒づいた。

「…何さ、性格悪いんだから。」

 は訳が分からず、首を傾げている。

「んにゃ、はそれでいいんだよ〜v」

 竜がの頭を撫でていた。

 バスケ部に属するつもりはない竜だが、が余程気に入ったらしい。

 毎日、部室に遊びに来ていた。

「大変そうだね〜。 真琴さん平気なの?」

 竜の声に翠が答える。

「わかんない。 でも、今に始まった事じゃないと思うし。 も、気を付けなよ。」

 さっさと着替えて出て行ってしまった翠の言葉に、はやはり首を傾げるだけだった。

「チュッパチャップス… じゃないや。 竜ちゃん…」

「なーに?」

 にっこりと微笑む竜に、が首を竦めた。

「着替えるから、放して。」



、遅いぞ!」

 藤真の声が飛ぶ。

「ごめんにゃ〜、ボス。 ボクのせいで遅れちゃったんだ、許してヨ。」

 竜が藤真の顔を覗き込む。

 藤真は小さく息を吐いた。

「基礎練習から始める! 一年も一緒だ!」

 藤真の声で、部員が動き出した。

「じゃ、ちゃん〜! がんばりや〜!」

「ん、樋口君もね!」

 男女で別れて、シュートの練習。

 竜は、もはや指定席と化した場所で練習を見ていた。

パシュ。

 大分、入るようになって来た。

 ゴールに吸い込まれたボールを取りに行こうと、が駆け出す。

「! 、ダ〜ルマさんが転んだ!!」

 突然の竜の声に、がぴたっと止まる。

 その目の前を、ボールが掠めた。

 止まっていなかったら、顔に当たっていただろう。

「もういいよ〜。」

 竜の声で、再び歩き出す。

(わざと…?)

 翠がボールが飛んできた方を見やる。

 三年の、西野だ。

 先ほど、更衣室で話していた事も気になる。

『一年のチビ、ナマイキだよね。』

『藤真君に気に入られてる子でしょ?』

『やっちゃおっか?』

 おそらく竜も聞いていたはずだ。

ガン。

 ボールがリングに当たって跳ねた。

 勢いよく飛んで行ったボールを追って、が駆け出す。

 三年が顔を見合わせた。

…!」

 翠の声に振り返ると、4つのボールが勢いよく自分に向かって来るのが目に入る。

「…え?」

 咄嗟に頭を庇った。



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