スウィート



「とりあえず、俺、フルーツパフェ。 あと、ロイヤルミルクティー。」

「あ、ボクは、季節のケーキ。 レモンティーとセットで。」

「翠は、ベリーミックスパフェと、メロンソーダ。」

 藤真の頭に、青筋が浮かんだ。

「話を聞きに来たんじゃないのか?」

「もちろん聞くで。 でも、折角なんやから、ええやん。」

 ウエイトレスが、他5人の注文を待っている。

「私は、アイスティー。」

「俺は、コーヒーフロート。」

「僕は、ダブルチーズケーキで。」

「チョコブラウニーパフェと…」

 ちらっとを見る。

「マロンシャンテリー。」

 場所は、学校から少し離れた、駅前。

 お客が女の子ばかりなのは、ここがデザート専門のカフェだから。

 店の名前は、"スウィート"。

 藤真達は、1年の頃から、何か話があるとココに来ていた。

「自分、ケーキとか好きなん?」

 樋口が不審そうに尋ねた。

「まあな。 ここは、格別に上手いぞ。」

「知っとる。 愛知にも、支店があんねん。」

 水を一口飲んで、樋口が毒づいた。

「…初めて意見が合ったな。 気色悪い…」

 藤真が苦笑う。

「んで、椛(もみじ)って誰なん? はい、どーそ!」

 先に運ばれて来たロイヤルミルクティーを、スプーンで掻き混ぜた。

 一度、真琴に目線を移して、藤真が一度溜息を吐いた。

「…去年まで、バスケ部だった。 不祥事があって、公式戦前に辞めてるんだ。」

「不祥事? もしかしてタバコ? どこの学校にも、ありえるもんにゃ〜。」

 竜が口を挟む。

「…コーチと私が見つけるまでに、何か揉めてたみたいで… 椛は何も言わなかったし…」

 真琴が瞳を伏せた。

「秋山 椛。 今は、2組だったか。」

 大祐が言ったと同時に、ウエイトレスが注文の品を持って来た。

「わーいv ケーキだ♪」

 竜が喜んでケーキを口に運んだ。

 大きなパフェを前にきょとんとしているに、藤真が小さく笑った。

「俺のお勧め。 上手いぞ。」

「はい、いただきます。」

 にっこり笑って、一口口に運ぶ。

ちゃん、それと俺の一口交換しよ! 俺、それも食べたかってん。」

 樋口が身を乗り出す。

「チーズケーキ一口もらいっ!」

 竜が、京のケーキに手を伸ばす。

「食ってる時くらい、大人しく出来ないのか!」

 大祐が頭を抑えた。

「椛さんって、アレだにょ? センター? 一人大きい人いたよね?」

 口元にケーキのくずを付けながら、竜が言った。

「…本当に、秋山先輩だったんですか? 練習にも一生懸命で真面目で、そんな人には見えませんでしたけど…。」

 京がナフキンで、竜の口元を拭った。

「秋山ね〜。 真琴も秋山とは仲良かったしな。」

 大祐の声に、翠が反応する。

「何? やっぱり昔から、マコちゃん嫌がらせされてんの? 本当に許せない!」

 勢いよく立ち上がった翠に、樋口が眉を顰める。

「暴れんなや! パフェひっくり返るやろ! ちゃんびっくりしてん!」

 大きなパフェの一番上に乗っていたマロンが、翠が立ち上がった拍子に転がり落ちた。

 ショックを受けた様子のに、マロンが追い討ちをかける。

「「「あ。」」」

 八人が見守る中、マロンは虚しくも床に転がり落ちた。

………。

……………………………。

……………………………………………………。

っ! ほら〜、ボクのケーキ一口あげるから!」

「悪い、! ブルベリー食べる?」

 竜と翠が、すかさずご機嫌取りを始める。

 は落ちたマロンを見つめて、ぷぅと頬を膨らませていた。

 樋口が小さく息を吐いた。

「ブラウニー、いただきや!」

 藤真のパフェのてっぺんに乗っていた、チョコブラウニーをフォークで刺すと。

「ほら、ちゃん、あ〜ん♪」

 の口にひょいと入れた。

「ひ〜ぐ〜ち〜…。」

「何やねん、チョコブラウニー一つで、大人気ないで。」

 恨めし気な藤真の視線に、樋口が首を竦める。

ちゃんの機嫌がなおったねんから、ええやん。 な?」

 が樋口と藤真を見比べた。

「美味しかったです。 ありがとう ?」

 首を傾げて、藤真の機嫌を伺っているのだろうか。

 小動物のようなその仕草に、藤真は小さく息を吐いた。

「とりあえず、な! 今日はもう解散! いいだろ?」

 微妙に重くなったような空気に、大祐が提案する。

 秋山 椛の話を聞きに来たつもりが、デザートを食べて終わっただけな気がするのは、きっと気のせいではない。



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