「し、信じられない…!」

 ペンを持つ真琴の手が震えていた。

「そんな、大袈裟だにゃ〜。 まだベスト8じゃ…」

「泉沢・女子バスケ部にとっては快挙なの!」

 あっけらかんとした竜に、翠が食らいつく。

 先日の試合。

 苦しい戦いでありながらも、何とか勝利を収めた。

「信じられない、まだトーナメント表を貼っているなんて。」

 真琴の瞳が潤む。

「初戦敗退だったからな。 こんなに長く貼ってる事なんかなかった。」

 秋山が頷いた。

 佐藤コーチも満足そうに頷く。

「黛キャプテンの元に秋山さんが戻って来て、泉沢・女子バスケ部の土台が出来ましたね。そこに…」

 コーチが続ける。

「佐倉さんとさんが、ガッツとスピードを加えてくれましたね。」

 翠が胸を張る。

「当ったり前じゃん! 翠が入ったからには、絶対に優勝だ!」

 は対照的に落ち着いていた。

「次の相手はどこですか、藤真先輩?」

 藤真がじっとトーナメント表を見据える。

 男子も順調に勝ち進んでいる。

「男子は武石中、女子は…富川(プチョン)………」

 藤真の表情が曇った。

「ぷっちょ?」

 首を傾げるに、竜が大笑いで答える。

「ぷっちょは、ソフトキャンディー! プチョンだってば!」

 竜が続ける。

「ベスト4常勝の朝鮮学校だにょ☆ 更科(うち)も、ちょっとしんどかったもんにゃ〜。」

 翠の瞳が不安気に揺れた。

「強いの?」

「強い、強い。 でもって、デカイ。」

 竜が首を竦める。

「大ちゃん先輩(大祐の事)と同じくらい、大きい人いるにょ。 三年レギュラーの平均身長が、170ちょい。」

「170…。」

 その場にいた全員が、無意識にを見つめる。

「…、身長は?」

 藤真が聞いた。

「はい! 135.1cm です! 1.1cm 伸びました!」

 得意になって言うの頭を、竜が撫でる。

「にゃははっ☆ 可愛いにゃ〜vvv」

 樋口がぼそっと呟いた。

「最悪、40cm ちゃうって事、覚悟せなあかんな。」

 今までの相手とは違う。

 藤真はちらっとを見た。

 身長差でシュートが邪魔されないようにと、フックショットの練習をさせている。

 それでも。

 きっと、辛い試合になるだろう。

 目を伏せる藤真を他所に、竜が大きな声で言う。

「あとね、プチョンの試合になると、すっごく観客だ多いんだ! 真琴さん、あがり症だから、大変だね。」

「あ、知っとる。 プチョン、皆美人さんやもんな。 そら見に来るわ。」

 樋口が続けた。

「観客で埋まった会場で試合すんのは始めてやろ。 ちゃん、緊張せんで頑張るんやで。」

「はい!」

 事の重大さに気付いていないのだろうか。

 少女は相変わらず、にこにこしている。

「樋口、お前もだ。 武石中は今までの相手とは違うぞ。」

「キャプテンの三井寿。 コイツがまたすごい奴なんだよ。」

 藤真と大祐の言葉に、樋口は楽しそうににんまりと笑った。

「敵は強い方が燃えるんや! 武石中なんか、けっちょんけっちょんにのしたるわ!」

 女子も男子も、越えなければいけない壁が高い。

 勝てば、ベスト4になる。

(絶対に勝ってみせる…)

 藤真が人知れず、拳を強く握った。



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