迷いの竜



ふぅ。

 小さな溜息が漏れた。

ちゃん、頑張っとるかな。」

 樋口が呟いた。

「あぁ"〜、大丈夫かな〜………」

 竜がそわそわした様子で言う。

「気になるねんやろ。 行って来いや。」

「だって… ボクは………」

 樋口の声に、竜が言葉を詰まらせる。

「男子は大丈夫だよ。 何とか食いついてるし。 炎も絶好調みたいだし。」

「おう。」

 京の言葉に、樋口が頷く。

 竜が俯いて呟く。

「ボクは、バスケは更科以外でする気はないんだ… だって、最高のチームだったんだ。 他のチームじゃ、あんなプレイは出来ないよ…」

 樋口と京が顔を見合わせて首を竦める。

「さ〜て、後半戦もやったるか!」

 伸びをして立ち上がる。

「ちなみに、女子が気になるんやったら、行きや。 俺のチャリ貸したるわ。」

 目の前に置かれた鍵。

 竜は唇を噛み締めていた。

 女子バスケ部が、存亡を欠けて試合に挑んでいるのは知っている。

 しかし、富川の4番・尹 妃奈は、そう甘くはない。

「竜。」

 顔を上げると、京がにっこりと笑った。

「あのね、一つ教えてあげる。」

 竜に耳打ちをする。

ちゃんのバッグの中、いつ竜が来てもいいように、7番のユニフォームが入ってるよ。」

 竜が前髪をくしゃっとかき上げた。

「…澪(みお)さん、ボク………」

 強く、拳を握る。



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