負けたくない。



「くそ…」

 秋山が舌打ちをする。

 4番・ピナが入ると、富川はがらっと変わる。

 パスやボール運び、ゲームメイクのセンスは他の誰よりもずば抜けている。

「得点が止まりそうだな。」

 後半開始5分。

 39-22。

 残り時間も少ない。

「…ごめんなさい………」

 肩を落とすの、頭を撫でる。

一人では荷が重い。 だからと言って、アタシまで上がるわけには…)

 真琴は、自分だけで精一杯。

 翠は自分の思うとおりに行かず、イライラしている。

(…このままじゃ、まずいな。 せめて、あと一人。 誰か、ペースを乱せるほどの実力者がいれば…)

「あ…!」

 柊の声に振り向いた。

 またしても、ピナにボールを奪われている。

「くそ…」

 自分より先に駆け出した小さな影に、一瞬目を疑う。

「止めろ、! お前は行くな!」

 これ以上、実力の差を見せ付けられれば。

 はもう、立ち直れないかもしれない。

バチィッ。

 ボールを弾いた。

「意外としつこいのね。」

 少し関心した様子で、ピナが言う。

 その声も聞こえないほど、は必死だった。

『男子も女子も、優勝するで! 俺とちゃんがいれば、絶対行ける!』

 負けたくなかった。

 短い間だが、一生懸命練習した。

 練習の成果を出せないまま負けてしまうなんて、藤真に申し訳ない。

 投げ出されたボールを追う。

 最後に触れたのは

 ここで諦めたら、そのままゲームが終わる。

 そんな気がした。

 ボールを追って、ラインから飛ぶ。

!!」

 翠の声が、聞こえた気がした。

ダァン。

 小さな体が、体育館の床に叩き付けられる。

 一瞬、館内が静まり返った。

負けたくない。-----

 が、強く拳を握る。

「あ…。」

 誰かの呟きに、少しだけ顔を上げる。

 見慣れないバッシュ。

 黒いリストバンドを付けた手を、差し伸べられた。

 7番のユニフォーム。

「…竜ちゃん。」

 大きく目を見開いて首を傾げる

「はは…。 来ちゃったヨ。」

 首を竦めたその表情は、いつもの悪戯好きの少女の顔ではなかった。



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