サンポ


『勝ちも負けも、これが試合なんだ。 冬がある。』

 試合終了の笛が鳴って、藤真に頭を撫でられた。

 怒られた方が、気が楽だったかも知れない。



はぁ。

 練習終了後に、時々樋口と二人で話していた川原。

 よく傍らに自転車を止めて、草の上に座って沈みかけた夕日を眺めていた。

 探していたモノを見つけて、は小さく息を吐いた。

 ちょこんと、隣に座る。

 突然の人の気配に、樋口が少しだけ顔を上げた。

にこ。

 目が合って、が笑った。

 樋口は、すぐにまた顔を膝に埋めてしまった。

「…どうしたん?」

 いつもと比べて、元気のない声。

 は、短く答えた。

「サンポ。」

「サンポ?」

 樋口が首を傾げる。

「ん。 樋口くんがいると思ったから。」

「…そか。」

 相変わらず、顔は膝に埋めたままだ。

 はそれ以上はもう、何も言わなかった。

 樋口が、わずかに身を捩る。

「惜しかったな。 あと、1ゴール、決まったら勝ったんやで。」

「ん。」

 膝を抱えて、続ける。

「絶対優勝する言うとったのにな。」

「ん。」

「あんだけ、練習したもんな………」

「ん。」

と。

 突然、顔を上げる。

「でも、初めてでこれだけの試合が出来たら上出来やな!」

「ん。」

 風が吹いた。

「……………っく…」

 は何も言わなかった。

「ほんまはな、めっちゃ悔しい… 何で、何で最後のシュートが入らなかったんやろ…」

「…ん。」

「俺自身に腹が立って仕方ないねん… 許せへんのや…」

 は、にこりと笑った。

「自分の失敗も成功も、自分が一番知ってるんだよ。 これからの自分の事は、自分が決めるんだから。」

 俯いたままの、樋口の頭を撫でる。

「また、一緒に練習頑張ろうよ。」

 少女の声が、心に、沁み込む。

ちゃん…」

「ん?」

 消え入りそうな、小さな声で樋口が言う。

「…ありがとな。」

「ん。」

 川原に座り込んだ、小さな二つの影。

 日の落ちかけた川原で、二人はしばらく何も言わずそうしていた。



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