挑戦



「気合入ってますね〜。」

 呑気な発言に、樋口がシュートを外した。

「…あんな、さっちゃん。 気抜ける事言わんで。」

 佐藤コーチを、樋口はこう呼んでいる。

「昨日の試合がショックで、今日は練習にいないと思いましたよ。」

「やめ、練習中や。」

 頭を撫でられて、樋口がその手を払う。

「気合入りますよ。 弱小と言われ続けたチームが、ベスト4まで上り詰めたんですから。」

 真琴の声に。

「去年は、富川、藍青(あいせい)、白海(しらうみ)… それに、更科(さらしな)だった。 うちが、4強に入るなんて、想像も出来なかっただろうな。」

 秋山が続き。

「クールなんだから。」

 翠が首を竦めた。

更科。―――――

 竜が小さく息を吐いた。

 去年は、更科の13番として、試合を体験している。

「さっちゃん、ベスト4決まったにょ。 対戦表は、まだ発表されてない?」

 気持ちは複雑だ。

 去年の仲間と、戦う事になる。

 佐藤コーチは、ニコニコと笑っている。

「ここにありますよ、対戦表。」

 コーチの声に、皆が振り返る。

「見ますか?」

「決まってるじゃないですか!」

 女子はもちろん、藤真や樋口も、対戦表を覗き込んだ。

沈黙。

…。

…………………。

…………………………………………。

 竜が息を飲んだ。

 準決勝。

 相手は、更科中。

 嫌な予感が、的中した。

 ちらっと、メンバーを見る。

 悪いチームではない。

 そう思う。

 しかし。

 更科に勝るチームは、どこにもない。

 更科を離れ、泉沢でバスケをするつもりは、全くと言ってもいいほどなかった。

 対戦相手として見た場合、更科はどれほどのチームなのか。

 中学バスケ関係者で、更科の名を知らぬ者はいない。

 もはや、常勝。

 試合をする前から、優勝が約束されている。

 そんなチームなのだ。

「竜ちゃん。」

 突然名を呼ばれて、竜が我に返る。

 がにっこり笑った。

「がんばろうね。」

 泉沢で、バスケをするきっかけになった小さな少女。

 一生懸命な少女を、助けたいと思った。

「ん…」

 ぎゅっと、を抱きしめる。

「…がんばろうね。」

 勝とうねと言おうとして、その言葉を飲み込んだ。

 無名の泉沢が、女王・更科に挑戦する。

 あとにも先にも、辛い試合になるだろう。



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