試合開始



 ちらっと、時計を見やる。 

 女子・準決勝開始まで、10分。

ふぅ。

 竜が小さく息を吐いた。

『貴女に、更科の4番を任せてもいいですか?』

 佐藤コーチの言葉が、肩に重く圧し掛かる。

更科の4番。

 反対側のコートで練習をしている、更科バスケ部をちらっと見る。

 香咲澪(こうさき みお)。

 一年間、同じチームでプレイして来た。

 その実力は、嫌と言うほどよく知っている。

 バスケで名が知られた更科でも、天才と呼ばれた選手。

 唯一、尊敬できるプレーヤーである。

 更科バスケ部を離れて、2ヶ月。

 一体どれ程、技術を磨いたのだろう。

「大丈夫?」

 突然の声に、竜が視線を落とした。

 が、心配そうに首を傾げている。

「大丈夫だにょ。 頑張ろぉネ☆」

 手招きをしているコーチの元へ向う。

「では、スターティングメンバーを発表します。」

 コーチが、緊張した様子のメンバーを見回した。

「黛さん、秋山さん、二葉さんに、佐倉さん… それから。」

 視線を落とす。

さん。 の、5人です。」

 がコーチを見上げる。

「大丈夫、自信を持ちなさい。」

 小さな肩をポンと叩いて、コーチが続けた。

「更科は、確かに強いチームです。 でも、貴女達には、更科と戦う資格がある。 今まで練習を頑張って来ました。」

 今日は、藤真や樋口をはじめ、男子も応援に来ている。

「勝っても負けても、悔いのない試合をしましょう。」

 準々決勝で惜しくも敗れた、泉沢男子バスケ部。

 そのメンバーが体験した悔しい思いを、元・常勝・更科バスケ部である竜は、まだ知らない。

 試合開始の笛が鳴る。

 ボールが高く投げられた。

 強く握った拳に、汗が滲んだ。



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