樋口が眉を寄せる。 「もっと、賑やかや思ってたんやけどな。」 vs 更科の試合は、静かな物だった。 プレイが派手な訳でもない。 観客が騒ぐ訳でもない。 静かで、それでも、確実に慎重に点を重ねて行く。 「俺ならヤやな。 やり難くてしゃあないわ。」 「これが、更科のゲームなんだ。」 呟く樋口に、京が答えた。 試合は、完全に更科のペース。 ドリブルの音と、ボールがゴールをすり抜ける音が異様に大きく感じられる。 静かな空間が、泉沢の選手を極度の緊張に追い込んでいる。 そんな感じだ。 「更科は、ゲームの展開が速い訳じゃない。 一人一人が、自分のスタイルを持ってプレイをしている。」 藤真の声に、樋口が視線を上げる。 「一見バラバラなチームを…」 コートに、指を向ける。 「4番、キャプテンの香咲澪(こうさき みお)が、上手くまとめているんだ。」 樋口はじっと、藤真の指す先を見据えた。 「4番から、いつも始まるねんな。 最初にボールが回って来る。」 「PG(ポイントガード)としてなら、高校でも通用するだろうな。」 京が微かに眉を寄せた。 「まだ、竜には荷が重いですよ。」 「せやけど、竜ちゃんがやらなあかんねん。 これから、エースがどう成長していくか、それに関わる事やからな。」 コートに視線を向けたまま言う樋口に、藤真が少し驚いた。 (俺には、樋口の成長の方が楽しみだけどな。 もちろん、も。) 「富川(プチョン)のキャプテンに言われたのよ。 小さい子と、貴女にしてやられたって。」 香咲が細く笑った。 「思えば、敵として戦うのは初めてよね。 さぁ、かかって来なさい。」 ボールが渡ったと同時に、香咲が動いた。 (そのパターンは知ってる!) 竜がブロックに入ると、香咲は笑った。 「お見事。 じゃ、行くわよ。」 一瞬だった。 瞬きをしたその一瞬に、抜かれて。 それから、コーチがタイムを取るまでは、よく覚えていない。 |