反撃



「あかん。 プレッシャー負けしとる。」

 休憩を挟んで、後半戦。

 竜の動きが鈍い。

「実際、ちゃんといっちゃん息合っとんの竜ちゃんやし、交代もさせたくないやろな。」

「竜の動きが悪いから、もペースを掴めていない。 どうしたものか… あ。」

 藤真が何か気付いたように、呟く。

「翠!」

 たまたま座った席の近くにいた翠に、声をかける。

「アレ。 やって見ろ。 樋口とが練習でやったやつだ。 出来るだろう?」

「でも、健ちゃん…」

 試合でそれどとろじゃないと言いた気に、翠が眉を寄せる。

「ええからやれ。 出来ひんのんか?」

 小馬鹿にしたような樋口の声に、翠が駆け出した。

 今、ボールを持っているのは

 だから、藤真は指示をしたのだ。

、はいっ!」

 まっすぐ、ゴールの方へ駆け出す。

 翠が突然声を出せば、当然パスが来ると読むだろう。

『お前は、ハーフラインを超えるまでは、パスは出すな。 自分でボールを運べ。』

 パスを予想している相手を抜くのは、難しい事ではない。

 フェイクだって、いくつも覚えたのだ。

「! 何しているの! 止めなさい!!」

 香咲が怒鳴った。

 走り出せば、はコート上の誰よりも早い。

 ハーフラインを少し超えたところで、が翠を一瞬見た。

 視線は翠に向けたまま、は逆方向にバウンドパスを出す。

 ゴール下にいた秋山にボールが渡ったかと思いきや、秋山はすぐさま走り出していたにボールを戻した。

 同時に跳んだ更科選手には目もくれず、まっすぐにゴールを見据える。

 フックショット。

 シュートは練習後に、5箇所から100本ずつ、毎日打っている。

 腕が上がらなくなるまでは、外すとは思わない。

 キレイな弧を描いて、ボールはゴールをすり抜けた。

 更科との試合が始まってやっと、メンバーに笑顔が浮かんだ。

「いつもは竜ちゃんと二人でやるねんな。 コレやらんと、ちゃん調子出ないんや。」

 樋口も細く笑った。

「さ、反撃の一発や。 これでどこまで、調子が出るかやな。」



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