流れ



「流れが、変わるやろな。」

 樋口が呟いた。

「今のファールって、やっぱり…」

 京が、ちらっと藤真を見る。

「ああ、わざと狙ったんだ。」

 藤真はコート上のをじっと見据えた。

「香咲は、基本的に、相手の利き腕とは逆の方向から、抜く事が多い。 それに気付いて、仕掛けたんだろう。」

「多いって言っても、今の偶然だろ?」

 大祐の言葉に、樋口が答えた。

「今のが偶然やって言うなら、運が味方しとると思ってええって。」

 樋口の視線の先では、が何やら竜に話しかけている。

「あまり早くにタイムを取ると、後が辛いからな。 一旦、ゲームを止める必要があった。」

 藤真が言った。

「大したものですね。 冷静に見れていないと、そこまで考えられないでしょう。」

 京の言葉を藤真が続ける。

「富川戦で、はかなり成長しただろう。 自分がチームの中でどう動くべきかを、常に考えている。」

「でもまずいんちゃう? 今のでちゃん警戒されるで?」

 樋口が少し唇を尖らせる。

 藤真が小さく笑った。

「そうだとしても、流れはきっと変わる。」



「次。」

 香咲がのマークをしているチームメイトを見据える。

「12番に抜かれたら、アタシが付くわ。」

 嫌な予感がする。

 後半、残り半分ほど。

 ここまで自分が思ったより楽に、ゲームをして来た。

 今更負けるとは思わないが、不要な不安ばかりが脳裏を過ぎる。

 その視線の先では、がチームメイトたちに何か話していた。

「私と、翠ちゃんでボールを運びます。 竜ちゃんは、ハーフラインより向こう、ゴールに近い所に。 真琴さんも。 椛さんは、ゴール下お願いします。」

 は続けた。

「ボールがどこにあるのか、誰が持っているのかだけを、見て動いて下さい。」

 秋山がを見据えた。

「信じるぞ?」

「はい。」

 は竜を見上げて、にっこりと笑った。

「大丈夫だよ、竜ちゃん。 まだ時間はあるから。」

 残り時間は、あと10分20秒。

 壁にかかったスコアを見上げる。

「一本! まずは、一本決めましょう!」

 得点は、39-13と、大きく離されていた。



back