「中々いいチームじゃない。」 香咲が細く笑った。 「泉沢の12番。 ジンクスは、男子の方だけだと思ってたわ。」 更科のタイムだ。 と翠の1年コンビに、少しペースを乱された。 香咲はチームメイトを落ち着かせるために、優しい声で言う。 「12番の小さい子、アタシが付くわ。 パスはもう通さない。 抜かれるつもりもない。 他は任せるわよ。」 チームメイトの顔を、ゆっくりと見回す。 「女王の名は、ここで渡せないわ。 行くわよ!」 「言う事はありません。 皆さん、もうわかっているでしょう。 さぁ、もう一頑張りですよ。」 と翠が、早いパスで敵を乱した。 20点以上あった差も、今では13点とまだ射程範囲だ。 ただ、残り時間が、わずか5分。 どこまで粘れるだろうか。 竜が本調子ではないが、他の選手は更科の名に怯えている。 交代させても、結果は望めないだろう。 ならば、竜にかけるしかない。 何か起こる。 そんな予感がする。 「お!」 樋口が身を乗り出した。 「4番がちゃんに付いたで!」 藤真を見上げる。 「いまのプレーを見れば、当然だろうな。 攻撃にしても守備にしても、起点はだから。」 「ここに来て厳しいな。」 大祐も顔を顰める。 泉沢ボール。 に渡る。 素早いドリブルで香咲を振り払おうとするが、だてに更科の4番を背負っていない。 がじっと香咲を見据えた。 フリースローライン付近で、止まる。 (身長差を警戒して、パスを通すはず…) 香咲がそう思った瞬間。 は跳んだ。 「! 打たせないわよ!」 続いて香咲が跳ぶ。 ボールを落とそうと手を伸ばすが、その手は空を切った。 「え?」 香咲だけではない。 応援席にいた藤真や樋口も、目を丸くした。 「フェイダウェイ!?」 教えたつもりはない。 入るはずは…。 「入った、よっしゃ♪」 樋口がガッツポーズをする。 驚いて言葉が出ない藤真に、樋口が言う。 「時々、朝錬してんねん。 その時、遊び気分でやってん。 ま、10回やって一回入ればええ方やけど。 ただ、三点はあかん。 届かんのや。」 フックショットに、フェイダウェイショット。 この少女は、予想以上のことをやってくれる。 「スキにつけこんでみました!」 少なからずショックを受けている時に、が元気に言うものだから、香咲は思わず吹き出してしまう。 「もう一切手加減はしないわよ。」 「はい!」 憎めない。 敵であるのに、そのプレーに魅了されてしまう。 これほど楽しい試合は、久しぶりだった。 しかし、楽しんでいるのは香咲だけで。 更科の選手は、唇を噛み締めていた。 |