ファール



「…っつ!!」

 声にならない悲鳴。

 一瞬、何が起きたのかわからなかった。

 ドリブルでボールを運ぶ

 更科の選手が、その小さな身体にぶつかった。

 ウエイトの差もあり、は勢いよくコート外に弾き飛ばされ。

っ!!」

 翠がそれを追って飛び出した。

ガシャーンっ!

 本部席に、頭から突っ込んだ。

! 佐倉!!」

 秋山が駆け寄る。

 の頭を抱えるような格好で、翠が身体を捩った。

「二人とも大丈夫?」

 おろおろする真琴。

 秋山は、にぶつかった敵チームの6番を睨みすえる。

(コイツ、悪質なファールばっかり…)

 全て狙いのファール。

 コレで五つ目、退場だ。

 秋山が何か言うより先に、審判の笛が鳴った。

「インテンショナルファール! 青・6番!!」

 観客席から、樋口が身を乗り出した。

「退場や! ざまぁみろ!」

「コラ。」

 汚い野次に、京が苦笑いした。

 コートから立ち去るメンバーに、香咲が声をかけた。

パーン。

 いきなり、頬を打つ。

「ユニフォームを返しなさい。 貴女にその資格は無いわ。」

 6番の選手は何も言い返せず、ただ唇を噛み締めた。

「カッコええやん。 …って、ちゃん! 大丈夫か!?」

 樋口だけではない。

 藤真も身を乗り出して、本部席の方を見やる。

「…大丈夫です!」

 小さく頭を振って、が立ち上がる。

「あと三分! まだ行ける!」

 翠が続いて立ち上がった。

「!」

 樋口が一瞬眉を寄せた。

「なぁ…」

 隣にいた京に言いかけて、首を振る。

「何でもないわ。」

 試合再開。

 三分間、誰もコートから目を離せなかった。



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