「…来たな。」 「…来たわね。」 大祐と黛が互いに顔を見合わせて、その日何度目かわからない台詞を口にする。 場所は第二体育館の、倉庫。 傍から見たら、かなり怪しい。 「今年は大丈夫さ。 秘策があるからな。」 指先でボールを回していた藤真が腰を上げた。 「…行くぞ。」 覚悟を決めて、3人は倉庫から出た。 今日は新入生による、体験入部の日。 バスケ部は…イヤ、藤真と黛は、毎年この日に、イタイ目に合っている。 ((今年こそは、大丈夫でありますように。)) 2人は強く願っていた。 PM 3:30 。 第二体育館には、バスケ部体験入部に、男女合わせて31人が参加希望を申し出た。 「「「きゃ〜っvv」」」 藤真のシュートが入るたびに、歓声を上げる女子体験入部員達。 「「「真琴先輩〜!!」」」 黛に手を振る男子体験入部員達。 大祐は乾笑した。 「…やっぱりな。」 バスケ部は、練習がキツイ事で有名だ。 そのためか毎年、新入部員は男女合わせて10人に満たない。 しかし。 校内一の美男美女が、それぞれキャプテンを務めているため、見物人は腐るほどいた。 体験入部に置き換えてもそうだ。 一体この中に何人、入部希望者がいるだろう。 騒がれて練習にならない。 藤真は溜息を吐いた。 「二葉、後は任せた。 大祐、真琴、行くぞ!」 2年のエースに部を任せ、藤真は例の秘策を用いるため、体験入部希望者を従えて体育館から出た。 「男バスのキャプテン、藤真健司だ。 希望者には今から、3つのテストをしてもらう。」 グラウンドに出て、藤真は入部希望者を一瞥した。 その中には、翠や樋口、の姿もある。 「テストって、なんや? バスケ技術でも、見る?」 樋口の言葉に、も翠も首を傾げるだけだ。 「始めに50mのダッシュ×10本。 次に、マラソン6キロ。 最後に、入部希望の男女に分かれて試合をしてもらう。」 藤真の言葉に、大祐は感心した。 「な〜るほど。 よく考えたな。」 黛も頷いている。 実際の練習ではそのくらいは当たり前である。 入部テストと言う名目で、ミーハーを追い返そうと言うのだ。 バスケ部顧問の、佐藤 幸(サトウ サチ)先生も承諾済だ。 え〜〜〜〜〜!!! 予想していた通り、嵐のようなブーイングが起こった。 「…なんや、陸上部か?」 樋口がゲッソリしたように呟いた。 「健ちゃん…翠も走んなきゃダメ?」 翠が嫌そうな顔をして藤真を見やる。 「あはは。」 そんな二人を見て、は楽しそうに笑った。 口々に文句を述べる新入生達に、藤真は一喝した。 「バスケ部にミーハーはいらない。 嫌なら、さっさと帰ってくれ。」 有無を言わせぬ口調。 樋口が言葉を詰まらせた。 「…厳しいキャプテンやな。 練習しんどいやろなぁ、コレ。」 藤真の言葉で、17人だけを残して新入生達は帰った。 「「…やっぱり。」」 黛と大祐が顔を見合わせて苦笑う。 「残ったと言う事は、入部する意があると言う事だな。」 藤真は残った新入生達を見回した。 「入部テストを始める。 途中で諦めるなら、入部は認めない。」 最初のダッシュは、半分くらいまでは楽だったが、次第に疲れが出てタイムが下がって行った。 マラソンが始まる頃には、10人しか残っていなかった。 (…コレでいいんだ。) 藤真はそう思った。 生半可な気持ちでは、長続きしない。 技術はなくても、バスケを誠実にプレイする部員が欲しかった。 |