清田信長



 体育館から出た所で、二人は足を止めた。

 道を塞ぐように立った一人の少年が、をじっと見つめている。

「???」

 少年に見覚えなどない。

 は首を傾げた。

「誰?」

 を庇うように、樋口が一歩出る。

 少年はそれでもをまじまじと見、突然敬礼をした。

「俺っ! 南中バスケ部の1年! 清田信長です!!」

 清田と名乗る少年の大声につられて、が答える。

「泉沢の12番、1年2組、です!」

ちゃん、正直すぎや。 まぁ、素直だからなんやけど…」

 樋口が小さく笑って、清田を見る。

「何の用や?」

「俺! 先輩に連れられて会場に来てただけなんだけど、ちゃんのプレイに感動しました!」

 樋口など視界にも入っていない感じで、清田はだけを見つめて続ける。

「俺、ちゃんみたいに小さいけど! 小さくてもバスケが出来るんだって、勇気を貰いました!!」

 樋口を突き飛ばし、の小さな手をぎゅっと握る。

「???」

 はそれでも首を傾げる事しか出来ない。

「俺諦めないから! いつかちゃんみたいに、人を感動させるプレイが出来るように! 諦めないでずっとバスケ続けるから!!」

「ん! がんばろ!」

 にっこりと笑ったを見て、清田の顔がゆでタコのように真っ赤になった。

 突き飛ばされたあげくに、蚊帳の外。

 樋口は面白くない。

「いつまで引っ付いてん!」

 から清田を剥がし、続ける。

「ノブナガだかヒデヨシだが知らんけどな! 慣れ慣れしいんちゃうか!」

 そこまでしてやっと、清田は樋口を見た。

(…泉沢の12番。)

 準々決勝。

 観客席から試合を見ていた。

 身長差がありすぎるため、自らシュートはあまりしなかったが、チームメイト達と息の合ったプレイをしていた。

 何より、走れば誰よりも早かった。

(そうだとは思ってたけど…)

 まじまじと樋口を見る。

「やっぱり小せえ。」

 ぐさっ。

「何やて? 自分も変わらんやろ! オレがチビならお前は何や? ドチビやないか!!」

 心で思っていただけのつもりが、しっかり声にしていたみたいで、そして更に樋口の耳に入ったようで。

 一気に捲くし立てられて、清田は一瞬呆気に取られ口をぱくぱくさせていた。

「だ、誰がドチビだ! このスーパーチビ!!」 (注:146.38cm)

「なめんなや! お前やったら、オレのがでかいわ!!」 (注:146.36cm)

 言い合いを始めた二人。

 が代わる代わる二人を見比べる。

(…?)

 どちらの方が大きいなんてわからない。

「清田ー!!」

 と。

 突然名前を呼ばれ、清田が返事をする。

「すぐ行きまーす!」

「行け! はよ行け! 二度と会いたないわ!!」

 毒づく樋口を睨み、に手を振る。

「じゃ、ちゃん。 俺がんばるから! 今日はありがとう!」

「バイバーイ。」

 が手を振った。

「厄日や! 三井にもあの清田ってヤツにも背の事であーだこーだ言われて…」

 ぶつぶつと文句を言う樋口を、が見上げる。

「あのね、翠ちゃんが…」

と。

「二人ともココにいたの?!」

 突然の声に、視線を向ける。

「真琴さんやないか。 どないしたん?」

 かなり走り続けていたのか、真琴は肩で息をしていた。

「翠ちゃん… 見なかった?」

 樋口とを、見回す。

「何で?」

 樋口がわずかに眉を寄せる。

 真琴が首を振った。

「いなくなっちゃったのよ、誰にも何も言わずに…」



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