悪友



はぁはぁ。

 樋口は肩で息をしていた。

 公園・川原に翠の姿はない。

 自分がこんながむしゃらになって翠を探している事が、不思議に思えてくる。

 いつも、顔を見れば一言目からケンカ言葉の出る悪友。

 しかし、今の翠は。

 放って置けなかった。

 翠はきっと自分を責めているだろう。

 数日前の、自分のように。

「ほんま、どこ行ってん…」

 樋口はその場にしゃがみこんだ。

 弾んだ息を整えるように、大きく息を吸う。

 少し落ち着くと、そこが学校の校門前だと言う事に気付いた。

(まさか…)

 日が落ちかけた、影の伸びた門をくぐる。

 足の向く先は、体育館。

 真琴の話では、そこにはいなかったと聞いていたが。

 ドアを開ける。

「…おらんか。」

 ゆっくり見回して、南側のドアが、ほんの少しだけ開いている事に気付いた。

「…ビンゴ。」

 静かに呟いて、ゆっくり足を進める。

 ドアを開けてすぐに目標を見つけ、樋口は小さく息を吐いた。

「何しとん?」

 突然の声に驚いたのか、翠が膝に埋めていた顔を上げた。

 樋口の顔を一度見て、再び膝に顔を埋める。

「…ほぅ、無視かい。」

 小さく息を吐いて、翠のとなりに腰を下ろした。

 少し涼しくなった風に、髪が揺れる。

「…らしくないやろ。 何、イジケとるん?」

「………うるさい。 放っておいてよ。」

 樋口の声に答える声は、いつもと違って弱々しい。

ちゃんを庇ったんや。 名誉の負傷やないか。」

「…気付いてたんだ。」

 樋口の声に驚いて、声が上擦る。

「当たり前や。 上手く騙しとったみたいやけど、立ち上がる時顔歪めたやん。 動きも、足首庇っとったし。」

 誰にも気付かれていないと思っていた。

 がコートの外に投げ出された時、咄嗟に庇った。

 に怪我はなかったが、右足首を捻挫してしまった。

 心配させたくなかったし、何よりが気にするから。

 怪我した事は誰にも言わず、隠しきるつもりだったのに。

「お前にしては上出来や。 まだ冬がある。」

 答える声はない。

 翠は俯いたまま、唇を噛み締めていた。

 樋口は少し考えたが、自分の着ていた薄手のパーカーを脱ぐと、頭から翠に被せた。

 翠が何か言うより先に、樋口が口を利いた。

「被っとき。 一応女の子なんやから、体冷やしたらあかんやろ。」

 いつもの悪態からは想像できない言葉。

 翠は一瞬言葉に詰まった。

「な…んだよ、こんな時ばっかり………」

「こんな時くらい、黙って"ありがとう"くらい言えんのか。」

 樋口は翠の方を見ていない。

 泣き顔を見られたくないと思い、気を使っているのか。

「………うるさい。」

 翠の声は震えていた。

「いつまでもいじけとってら、ちゃんが気にするやろ。 ココで最後にして、次会うた時はいつものお前に戻れよ。 出来るな?」

 夕日が炎のように、赤く燃えていた日だった。



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