樋口炎は中々上機嫌だった。 「ちゃん、チョコアイスやるからいちごのアイス一口くれ。」 「ん、いいよー。」 ニコニコと仲良くパフェを頬張る姿は何とも言えず、微笑ましい。 藤真は頭を抱えた。 始めて一時間も経っていない。 と樋口は、藤真に言われた問題を見事全問正解して、パフェを注文していた。 「…二葉、知ってたな。」 京を見ると、京は竜のノートに視線を落としたままニコニコして言った。 「僕は聞かれなかったから何も言わなかったんですよ。」 藤真は上機嫌の二人を見て、溜息を吐いた。 「中間試験は勉強しなかったのか? 赤点ギリギリだっただろ?」 アイスを一口口に入れて、樋口が答える。 「せんかったし、前日の練習もあってごっつしんどかってん。 せやから、追試ギリギリセーフくらいまで問題解いて、寝た。」 樋口の答えに肩を落としてを見ると。 「え〜と。 前日の練習で、聞き手の親指捻挫して… 痛かったから、ちょっとだけ書いて終わりました。」 そう言えば、怪我した日があった。 疲れた様子の藤真に、京がニコニコして言う。 「炎は入学生代表で挨拶したんですよ。 数学と理科は満点だったみたいで、佐藤コーチも褒めてましたし。」 竜のノートに視線を落としたまま、続ける。 「ちゃんも入試の成績かなりよかったみたいですよ。 ただ男子がいいだろうとの意見で、炎だっただけみたいです。」 あまり言いたくないが。 「お前等、勉強できたんだな。」 大祐が関心したように呟いた。 「ふふん♪ オレ親戚中に天才や言われてん。 通知表だって、ずっと満点や!」 樋口とは問題ない。 他の二人を見ると。 「お。終わった〜!」 喜んでバンザイをする竜に。 「ココ違うよ。」 と、京が言い。 「ほら、さっきと同じ公式を使って…」 真琴に言わた、翠はイジケていた。 「まだかかりそうだな〜…」 一度溜息を吐いて、樋口を見る。 「しかし、お前勉強できそうに見えないな〜。」 「笑顔で失礼な事言わんといてや、大ちゃん先輩。」 樋口が続ける。 「オレな、医者になりたいんや。 せやから、勉強はしとるで。 まだ治せない病気とかあるけど、それも治せるような医者になるんや。」 めずらしく真面目な事を言う樋口に、一同しばし言葉を失った。 「んで!」 くるりと、隣を振り返る。 「可愛い助手のナースは、ちゃんで決まりや☆ なー♪」 「なー♪」 話を聞いていたのだろうか、が笑顔で答えた。 「な、な! 夏休みの練習予定ってどーなん?」 樋口の突然の問いに、藤真は少し考えて。 「休みはあまり期待するなよ。 特に二人は、俺の特別メニューもこなして貰う。」 樋口が少し嫌な顔をした。 「大阪帰れへんやん… 特別メニューって、どーせ毎日あるんやろ?」 と。 何か良からぬ事でもひらめいたのだろう。 元気よく立ち上がると、びしっと藤真を指差した。 「期末試験! オレが学校で一番の成績やったら、三連休でええわ、くれ!」 呆気に取られる藤真。 樋口は続ける。 「もちろん、ちゃんもや! 二人っきりで扱かれたら、死んでまうわ。」 は大きな目を更に大きくして、じっと樋口を見ている。 京が首を竦めた。 「炎、僕の成績知ってて言ってる?」 中間では、5教科・500点満点で496点。 学校一の成績だった。 「全教科満点、取ればええんやろ? オレはやる言うたらやるで。」 じっと藤真を見る。 「どや、ボス? 賭ける?? 負けたら諦めるわ。 休みはいらん。」 どうしてこう勝気で、気が強いのだろう。 しかも、その自信はどこから沸いて出るのだろう。 まぁ、目標があれば人間死ぬ気で頑張れる。 「…いいだろう、やってみろ。 ただし、俺に負けたら、本当に一日も休みはないぞ。」 「ちょっと、健司…」 思わず真琴が首を振り。 「やらせようぜ、面白そうだし。」 大祐は笑っている。 藤真だって、本気ではない。 面白そうだから乗っているだけだ。 「よし! 約束や!」 ガッツポーズをして、樋口が笑った。 「うるさい!! 集中出来ないだろ!!!」 問題が中々解けずイライラしていた翠が、思いっきり怒鳴った。 |