ご褒美



「おぉ〜! 人がいっぱいや!」

 辺りを見回して、樋口がぼやいた。

「はぐれそうやな、ホレ。」

 すっと、手を差し伸べる。

「ん。」

 の小さな手が、自分よりも少しい大きい樋口の手を取った。

 その様子を黙って見ていた藤真に、小さく毒づく。

「ボスとは繋がん。 そんな趣味はないねん。」

 わずかに失笑した。

「席を探そう。」

 軽く流して歩き出す。

(恥かしくないのか?)

 中学にもなると思春期を向え、男女を変に意識するようになるだろう。

 しかし、この二人に、そんな照れは微塵も感じない。

 場所は、市の体育館。

 今日、ここでは。

「高校の決勝か… 何かドキドキして来たわ!」

 樋口が嬉しそうに言った。

 試験をがんばったご褒美に、藤真が二人を連れて来たのだ。

「神奈川の王者、海南大付属。」

 藤真が続ける。

「相手は、翔陽高校だ。」

 高校の決勝は、リーグ戦。

 両校二勝ずつ上げているため、今日のこの試合で、優勝校が決まる。

 試合開始。

 三人は食い入るように、見入っていた。







「やっぱ海南やな〜…」

 ロビーでシュースを買いながら、樋口が言う。

「でも、翔陽も惜しかったよね?」

 が、二人を見上げる。

「そうだな…」

 短く答えて、藤真は黙った。

 誰か、こちらの方へ歩いて来る。

「泉沢の藤真君だね?」

 センスを片手に持った男。

「海南バスケ部の監督をしている、高頭だ。」

 わずかに目を細めた。

「始めまして。」

 軽く頭を下げる。

「海南の監督が、ウチのボスに何か用なん?」

「こら。」

 態度がでかい樋口を、少し嗜める。

 その様子を見て、高頭が細く笑う。

「12番は元気だな、樋口君。」

 自分の名前を知っていた事に、少し驚く。

 高頭は藤真をじっと見据えた。

「武石中との試合を見たよ。 惜しかった。」

 ぱたぱたとセンスを扇ぎながら、続ける。

「単刀直入に言おう。 高校でバスケをする気があるなら、海南へ来るといい。 君なら、レギュラー確実だ。」

 樋口とが、揃って藤真の顔色を伺った。

 藤真は首を竦めた。

「買いかぶりですよ。」

 高頭は満足そうに笑って、去って行った。

「…海南に行くん?」

 樋口が少し眉を寄せて尋ねる。

 藤真は小さく首を振った。

「いや、俺は翔陽を受けるよ。」

 藤真は続けた。

「確かに海南は強いチームだ。 だから、その海南と戦ってみたい。 今日の試合を見て、そう思ったんだ。」

 樋口は、細く笑った。

「なんやねん、オレと同じ事考えて… マネすんなや。 ほんまキショイわ。」

 その声はどこか嬉しそうだった。

「じゃぁ、三年後。 高校生になったら…」

 が二人の顔を見比べた。

「ボスと樋口君と、私とで男女全国制覇だね!」

 元気にガッツポーズをしてそんな事を言うから。

「そうやな。 オレとちゃんがおれば出来るわ!」

 樋口も藤真も、つられて笑ってしまった。



back