リストバンド



7月17日 快晴。

「はぁ〜、しんど〜…」

 練習終了後、モップ掛けをする樋口が大きく溜息を吐いた。

 午後6時前だと言うのに、まだ湿気が多く、ベタベタする。

 部活練習の後に、藤真の組んだ特別メニュー。

 一日で、何枚Tシャツを洗濯しているかわからない。

 それ程、締め切った体育館は、暑かった。

 いつも元気な樋口でも、さすがに体力の限界を感じる。

「コラ、キリキリ動け。」

 モップに寄りかかるようにして、ぼ〜っと突っ立ている樋口。

 藤真が後ろから軽く頭を叩いた。

「お前がサボってると、が一人でモップ掛けする事になるんだぞ。」

 樋口は藤真を軽く睨み上げて、くるっとの方を振り返った。

ちゃん、半分ずつな! 先に終わった方が、勝ち。 んで、負けた方は明日、勝った方に弁当持って来る。 どや?」

「おっけーです!」

 元気に返事をしたに、樋口は大きく頷く。

「よーい、どん!」

 重い足を引きずって、駆け出す。

 三人しかいない体育館は、思った以上に広かった。



「お疲れさんでした!」 「お疲れ様でした!」

「ああ、また明日な。」

 校門を出てすぐに、方向が違うため藤真と別れる。

 重い足を引きずるようにして、二人は歩いていた。

 一緒に帰るのは、公園まで。

「じゃ、お疲れさん。 また明日な!」

「あ、ちょっと待って。」

 は鞄を開けて、小さな包みを取り出した。

「はい。」

 にっこり笑って、樋口に差し出す。

 首を傾げる樋口に、が続ける。

「誕生日おめでとう。 大した物じゃないけど、プレゼント。」

「あ…」

 驚きで、咄嗟に言葉が出なかった。

「そう言えばそやな。 覚えててくれたん?」

 正直嬉しい。

 誕生日を聞かれたのは、4月。

 入学して間もない頃だった。

「ん。」

 包みを受け取る。

「…開けてもええか?」

 元気に頷くに、何故か、少し恥かしいようなくすぐったい感じがする。

 リストバンド。

 赤いラインの入った、白いリストバンドである。

「ありがと。 ほんまありがとな。」

 はにっこりと笑った。

「二人でオソロイなの。 冬の大会では、一緒に優勝できますように。」

 夏の大会に向けての予選でも、お揃いのリストバンドを付けていた。

 藤真が二人にくれた物だった。

 じぃっと、を見つめる。

 温かい。―――――

 樋口はわずかに眉を寄せた。

「優勝しよな。 12番のユニフォームにかけて。」

 が笑顔で頷いた。

 樋口が小さく頭を振る。

(あかんって………)

 樋口の様子に首を傾げながら、が言う。

「じゃ、明日。 お弁当作って来るから。」

 手を振るに、樋口が少し慌てて声を投げる。

「何で? 負けたんオレやで、ちゃん。」

「だって、樋口くん半分より多かったもん!」

 元気に駆け出しながら、が言った。

「何や、バレとったんか。」

 真っ赤な夕日。

 伸びた影がだんだん小さくなるのを見つめながら、樋口は息を吐いた。

「…ほんま元気やな。 敵わんわ。」

 少し困った様な、表情をしていた。



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