ニオイ



「あれ?」

 部活時間。

 二葉竜は首を傾げていた。

「どうした、二葉?」

 秋山が声を掛ける。

 竜は秋山と真琴を見比べた。

「…、今日おかしくない?」

「おかしいのはじゃない。」

 どこから沸いたのか、翠がいつの間にかその輪に加わっていた。

 すっと、男子の方を指差す。

「おかしいのは、アイツ。 今日絶対おかしい。 って言うか、最近変。」

 翠の指差す方向には、樋口。

「炎がねぇ…」

 竜が呟いた。

 視線を、ランニング中のに向ける。

「…何か、楽しそうなニオイがする。」



 練習終了後(特別メニュー終了後)の、男子更衣室。

 先に着替え終えた藤真が、椅子に腰掛けて樋口が着替え終わるのを待っていた。

 じぃ〜。

 不愉快そうに、振り返る。

「何や、キショイわ。 オレの体見て、何が楽しいん?」

「そんな趣味はない。」

 軽く流して、藤真が続ける。

「少し痩せたんじゃないか?」

「せやな。 体しんどいし、暑いし… あんま食欲ないねん。」

 藤真が息を吐いた。

「前から言ってるだろ、もっとウエイトを付けろって。」

 練習中、ぶつかると必ず転んだ。

 身長が小さいのもそうだが、樋口は誰よりも軽い。

「体重より身長が欲しいわ、簡単に付いたら苦労せんって。」

 シャツのボタンを閉める。

 違和感を感じる。

「…樋口、どこか悪いのか?」

「夏バテや、身体はデリケートやからな。」

 淡々とした口調。

 疲れているからだろうとか、そう言った事ではないと思う。

 練習中も、どこか上の空だった。

 いつもは怒鳴りたくなるほどうるさいのに、ここ最近は気味悪いほど大人しかった。

「………」

 何か言おうとした藤真を遮って、樋口が言う。

「行くで、帰ろや。」





 体育館を出た所で、思わぬ人物に会った。

「竜ちゃん…」

 ににっこりと笑う。

「お疲れさま☆ アイス食べに行かない? ミニストップの新商品、今日から発売なんだ〜♪」

「いく!」

 ほぼ即答のに対して。

「オレ、ええわ。 お疲れさん。」

 樋口はそれだけ言い残して、歩き出した。

「…樋口。」

 藤真が溜息を吐く。

「…ボス、炎どしたの?」

「俺が聞きたいよ。」

 竜に訊ねられても、藤真も困るしかない。

 しょんぼりと肩を落としたに、にっこりと笑いかける。

! アイス行こ! アイス!!」

 小さな手を掴んで、走り出した。



back